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もともとはハロウィン話のつもりだったトッズ愛情Aエンド後の話。
途中ちらっと出てくる話題とカボチャにその名残が少々。

レハトさん素直だけど照れ屋。



「ちゃんと座ったかい? それじゃ、出発するよ」

私達が荷車に乗り込んだのを見届けて御者台のおじさんが下ろしていた手綱を取り、振るう。 
突然増えた荷が気に入らないのか、なんとなく不満そうな様子で頭を振って鳴き声を上げていた兎鹿達はそれでもすぐに力強い足取りで歩み始め、鹿車は軋む音を立ててゆっくり、やがて少しずつ勢いを増しながら土埃を巻き上げて田舎道を走り出した。

城を出た直後とは違って旅をしながらの暮らしにもすっかり慣れた今はもうずっと歩き続けても大変という事はないけれど、こうして足を休められるとやっぱりほっとする。
ふう、と溜息をついた私の頭を大きな手が昔良くしていたみたいに優しくぽんぽんと叩いてきた。

「お疲れさん。 良かったよね、丁度町に行く途中の鹿車つかまえられて。 着くまでまだ結構距離あるらしいからな」

肩にあごを乗せてきたトッズはやけにご機嫌で、一方の私はちょっと落ち着かない。

「あーやっぱ歩くよか確実に早いなあ。 この分なら昼前には町に着けそうね。 少しゆっくり出来るかな、ここ何日も歩き詰めだったから流石に疲れたろ」

トッズこそ久しぶりに屋根の下で眠れるんだから今日はちゃんと休んでね。 そう返事をすると耳元でくつくつと笑う声がして、いきなり体に回された手にぎゅうっと抱きすくめられた。 突然の事に慌てる余り真面目に聞いてよねと続けた言葉が少し強い調子になってしまったけれど、まるでお構いなしに上から痛いくらいの頬擦りが降ってくる。

「もちろん真面目に聞いてるよー? ああ愛されてるなあ、俺ってば。 ……。わかってますって。 大丈夫、ちゃんと休むから。 心配してもらうのも悪くないけどさ、ここぞって時にちゃんと活躍して惚れ直してもらえるように備えとかなきゃいけないもんね?」

頬を寄せて私をしっかり抱えたままはしゃいでいるトッズがひときわ高く積まれたカボチャの脇の唯一空いている場所を見つけるなりどっかりと自分一人で座ってしまったから、さっきから私はその膝の上に腰掛けている。 
今は二人きりでもないし恥ずかしいからできればつめてもらって並んで座りたいとさっきから頼んでるのに、聞き入れてくれるつもりは全くないみたいだ。

さりげなく体をずらして距離を空けようとしてみたらすぐに気付かれて、逆にほとんどおんぶに近い状態でくっつかれる。 予想通りとはいえ結果とかかってくる重みに思わず溜息をつきかけた時、ふと良く晴れて雲一つない空に目が吸い寄せられた。
視界一杯にどこまでも広がる深く澄んだ青い色を眺めている内にずいぶん遠くまで来たんだな、と改めて実感して途端にちょっと切ない気持ちになってしまう。
城からも勿論だけど、故郷の村から、あそこでの穏やかな毎日から。 遠く遠く離れてこんな所まで来た。 

丁度種をまき終えたばかりだった畑は誰か引き継いでくれたかな。
お隣さんは子供がいないし奥さんが腰を痛めてしまってずっと私が水汲みの手伝いをしていたけど今はどうしてるだろう。
仕事の合間を縫って母さんが少しずつ作ってくれていた成人した後の服、あれも未完成の状態で物入れに仕舞いこんだきりだ。 …無理を言ってせめてあれだけでも持ってくれば良かった。

傍らの収穫したての野菜から立ち昇る湿った土の懐かしい匂いで記憶が呼び起こされたのかもしれない。
あれこれ思い返していると不意に密着していた体が離れ間近に覗き込まれて我に返る。

「どした? 何かぼんやりしてるけど。 疲れちゃった?」 

大丈夫、なんでもないと慌てて答えたもののトッズは心配そうなまま腕を伸ばして私の頬を温かな手のひらでそっと包み込む。
普段は感情の動きがわかりにくい色の薄い瞳はこういう時は言葉や表情以上にずっと雄弁で真っ直ぐで。 
……その目でこんな風にじっと見つめてくるのはずるいと、いつも思う。

少し村の事を思い出してしまっただけだから本当に大丈夫、幾分赤くなった顔を意識しながら横を向いて呟くとトッズは周りを見回してああ、と納得したような声を出した。

「…やっぱりさ、村に帰りたい?」

帰りたくない。 
優しく問い掛けられて私は首を振る。

そんな風に考えた事なんて一度もないのだけど、トッズは城から逃げたせいで色々不自由になってしまったのを私に悪いと思っている様だからこれ以上余計な気を遣わせたくないというのも勿論ある。

でもそれだけじゃなくて本心からの言葉なのが伝わったのだろう、更に何か言おうとしていた口を閉じるとトッズは続きを促す様に私に小さく頷いてみせる。

村の事は大好きだし、懐かしい。 
皆元気にしているのか知りたいとも思う。

でも、私がいたいのはトッズの隣だけだから。

その場の雰囲気でつい口走ってからはっとしたがもう遅かった。
せっかく離れかけていた距離が瞬時に縮まって、満面の笑みと共に全力で抱きつかれる。

「ああ、もう! そんな事言ってくれるなんて可愛いんだから。 あー俺ほんとに愛されてるなー。 幸せ過ぎてなんかちょっともう具合悪くなりそう」

額といわず頬といわず顔中いたる所に唇を押し付けられて人前だから、好意で乗せてもらってるんだから、とうろたえつつ必死に囁きかけても全然聞いている様子がない。 でも目尻を一層下げて本当に嬉しそうな顔をされるとこれ以上言う気にもなれなくて、道が悪いのか少し揺れ出した鹿車を操るおじさんがこっちを見たりしませんようにとそれだけを祈りつつ、トッズの気が済むまで私達はしばらくそうしていた。



そうこうする間に気が付けば辺りの風景が変わっていた。 道に刻まれた轍が深くなり、畑や建物といった人の手が加わったものが時折目に入るようになってきて町が近づいてきているらしいと教えてくれる。

鹿車ってやっぱり便利だし速いね、赤くなったままぎこちなく話題を変えようとした私を見下ろしてトッズはにやにやしつつもそうね、と相槌を打つ。 

「確かにね。 余裕があれば俺達も兎鹿の一頭や二頭、欲しいとこだよね。 そうすりゃ荷物なんかも今よりもうちょっと…っとと」

ガタン、その時石に乗り上げでもしたのか不意に荷車の片側が跳ねる様に持ち上がり、落ちる。 衝撃が来る前に素早く力が籠められた腕に体を支えてもらいながら、私は傍らの山から転がってきたカボチャが地面に落ちてしまう前に両手で抱え込んだ。

「すまないね、 どこかぶつけたりしてないかい」
 
兎鹿の歩みを止めて振り返ったおじさんが心配そうに尋ねてくる。 更に崩れ出してきそうになったカボチャの山を二人で直しながら大丈夫だと答えると、おじさんはほっとした様に大きな口を開けて笑った。

「ならよかった。 そいつらも割れたら売りもんにならなくなるしなあ。 あんたたちに乗ってもらってこっちも助かったよ」 

積み直すついでに他の野菜もきちんと寄せてもう一人分座れる場所を作るとトッズは大分不満そうだった。
鹿車は再び走り出す。 


「…にしても随分と豊作ね、カボチャ。 こんなにいっぺんに町に運んで、もしかしてこの辺でも祭にカボチャの提灯出すとか?」

提灯?
その言葉に私とおじさんが不思議そうな顔をしたのを見て、トッズはえへんと咳払いをすると今頃にやるというここからそう遠くない地方のお祭りの話をしてくれる。
町を挙げて飾りつけをして魔物や魔術師の仮装で歩き回って、子供達には沢山のお菓子を用意して…聞いているだけで楽しそうなお祭りだ。
 
いつか行ってみたい、行こうとせがむとトッズもいいねと大きく頷く。

「そうね、どうせなら見るだけじゃなくて参加しちゃおうか。 せっかくだから今からどんな仮装してもらうか考えとこっかなあ。 まあ何着たって可愛くて似合うに決まってるんだけどねー」 



こうしてまた一つ、私達は約束を交わす。

トッズが笛の吹き方を教えてくれる代わりに私が今日の料理の隠し味を教える、みたいにすぐ実現する簡単なものから海も雪も聖山も全部見に行こう、といういつになるかもわからないもの。
果ては魔の草原の奥に魔法王国を探しに行こうか、それとも思い切って壁を越えちゃおうかなんて篭りの最中苦しむ私の気を紛らわす為にしてくれた話のついでのもう荒唐無稽としか言えない様なものまで、一緒の道を歩きながらしてきた両手では足りないくらいの沢山の約束。

今はまだ叶ってないものの方がずっと多いし、絶対その日が来そうにないのも幾つもあるし、まだ本当の名前だって聞かせてもらってないけれど、それでも少しも構わなかった。 

「先の目標は多けりゃ多いほどいいよね。 この先長い長い二人の時間があるんだからさ」

トッズが前に言っていた通りだと思う。 



そうしておじさんとも打ち解けて色々話していく内に、自然と話題は畑と農作業についてに移っていった。

今なっている作物とその出来、収穫量を上げる為している工夫、この先の天気の行方…。 
特別な事は何もない至って普通の会話なのに驚くくらいに楽しく充実した気分になって、どれだけ長い間土から離れてしまっていたかに気付かされる。

この先一箇所に落ち着く日が来たら、何はなくともまず畑を作ろう。 沢山収穫できたらちょうどこんな風にトッズと町に売りに行ったりしてもいいかもしれない。 それならやっぱり兎鹿を手に入れないと。


話し好きなおじさんと情報交換ですっかり盛り上がってしまった為だろうか、そういえば普段なら一番喋るはずのそのトッズが先程から黙ったままだ。 仲間はずれにするつもりではなかったのだけど、慌てて隣を向くとカボチャの山に寄りかかって目を閉じている。

寝ちゃったの? 尋ねながら覗き込んでも返事が無い。 ただその表情は少し笑ってる様で別に気を悪くしている訳ではなさそうだったのでちょっとほっとした。 

…もしかしたら村を思い出した私の為に心ゆくまで話ができるよう、気遣ってくれたのかもしれない。


「旦那さん、疲れてるんじゃないかい? 寝かせてやりなよ」

旦那さん。 
聞こえてきた言葉に一瞬気持ちが舞い上がって、それからいややっぱり空耳だったかもしれないとついつい疑ってしまう。 初めて人に夫婦だとわかってもらえた。
これまで散々兄弟とか、似てない兄弟とか、行商人とその見習いとか、酷い時には人買いとその商品だと間違われまでしたのに、遂に、ようやくこの日が来た。


「おや、違ったかい」

全力で首を振る。 もちろんそう。私の自慢の旦那さんです。 
断言する私におじさんが微笑ましそうな顔をしてお似合いだからすぐにわかったよと更に嬉しくなる事を言ってくれる。

「仲睦まじくて羨ましいくらいだね。 大事にしてあげなよ」

トッズを振り返ると目は閉じたまま、だけど口元に浮かんだ笑みが大きくなっている。
…やっぱり眠ってはいないみたいだ。 旅の間中ずっと神経を張り詰めているのだろうから、今くらいはふりじゃなくて本当に休んでくれたらいいのに。 

起こしたら気の毒だからと気を使ってくれたおじさんが話を止めて前を向き、私は固いカボチャを枕にしているよりはとだらりとしてる割にやけに協力的に動く体を抱えて引き寄せて自分の方にもたれさせる。
わざとらしく立てている寝息を聞きながら髪を撫でていると、突然その手がぎゅっと握られた。

「…あのさ、レハト」

車輪の音にまぎれるように潜めた低い声。 普段トッズは他の人が周りにいる間は決して名前で呼んでこない。
大事な話だと気づいて黙って頷く私の肩に頭を預けたまま、暫く口を閉ざしていた後やがて珍しくためらいがちな調子で再び続きを喋り始める。 

「いつか、本当にいつになるかはわかんないけどさ。 いつか必ずお前の村に二人で行こう。 お前の母さんのお墓にちゃんと報告して、まあいるのはお山だとしてもさ、元気な姿見せて安心させてやらないとな」

意外な言葉に驚いて、思わず身を離してまじまじと見た私と視線を合わそうとせずにトッズは床を見つめたままちょっと照れくさそうに笑う。

「…なんだろな。 こんな風に考えた事なんて無かったんだけどな。 レハトの母さんとかレハトを育ててくれた村に感謝したくなってさ。 ……今はそういうの、少し判るような気がするんだよな」 

じゃあ、約束。 同じ位小さく私も囁く。
私も、私の育った所をトッズに知ってもらいたい。 本当に田舎で不便で何も無いけれど、太陽の光を受けて一面に咲き誇る黄色い花々に囲まれた、他のどこよりもきれいで愛おしい、私と母さんが暮らした場所を。

繋いだ手を指を絡めて握り直して、今度はトッズが私を引き寄せて自分に寄りかからせる。
その後は続く沈黙を何となく破る気になれないまま、二人で遠くに現れて少しずつ近づいてくる目的地をただずっと眺めていた。




町の入り口で鹿車を降ろしてもらって、そこで私達は親切なおじさんと別れる。 
比較的大きな町で活気があって賑わっていた。 私は改めて額を隠す布を確かめ、トッズは荷物を背負いながらあくまでもさりげなく周囲に目を配っている。

「んじゃまあ、行くとしますか…ん? どうした?」

この先の市にいるから気が向いたらおいでと言い残して去っていくおじさんを見送ってから、教えてもらった宿を探しに歩き出そうとするトッズの腕を引いて思い切ってさっき鹿車に揺られながらずっと考えていた事をぶつけてみた。

今は無理だし、きっとずっと先になるだろうし、もしかしたらそもそも全く不可能なのかもしれないけど。
もしできるのならトッズの家族の手がかりも探したい。

私の言葉に色の薄い目を見開いて大きく瞬きしたトッズは何も言おうとせずにただじっと見つめてくる。
その様子に誤解させてしまったかもしれないと気付いて慌てて付け加える。

もちろん余り昔の話をしたくないのは知っているし、別に詮索したい訳じゃない。
そうじゃなくて、トッズがそうしたいと思ってくれたみたいに私もトッズ自身にもっと寄り添って生きていきたいだけで、
早口で喋る私の耳に小さく息を吐き出す音が聞こえてきて、心臓が大きく跳ねる。
怒らせてしまっただろうか。 やっぱり余計な事だっただろうか。


「……俺はレハトと会う前の自分になんか何の興味もないけど」

やがてぽつりと呟きが返ってくる。

「…でも、そうね。 二人でできる事が増えるのは悪くないかもね。 正直手がかりないし、時間経ってるし元の陣営裏切ってるしで何も出てきそうにないけど。 まあ、それならそれで長く細く楽しめてかえっていいかもな」 

くしゃりと表情を崩すトッズにつられてほっとした私も笑い出して、差し出された手にもうためらわずにしっかりつかまって、そして二人でまた新しい一歩を踏み出す。 

俺ってばつくづく世界一の幸せ者だなあ、いつもの余裕たっぷりの顔とは違う、時折見せてくれるようになったどこかぎこちなくて柔らかな微笑みを口の端に乗せてトッズは言う。
もしかしたら自分では気付いていないのかもしれないその変化をこうして隣で知る事が出来る私の方こそが、きっと世界で一番幸せな人間だ。


胸一杯の幸福感と、数え切れないほどの沢山の約束と、それに餞別にもらった大きなカボチャが一つ。
その全てを愛おしく抱えて私達はただ、歩き続けた。

 
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