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トッズ愛情Aエンド後。 でもトッズもレハトも出番無し。

ローニカの好愛も大分高かった様子。



中庭の小道を歩きながらふと彼は立ち止まり、目を凝らす。 奥の木立ちの間から見え隠れする人影、その小柄な後姿と木漏れ日を受けて輝く金色の髪に見覚えがあった。

「…サニャさん、こんなところでどうしましたか」

声を掛けた途端小さい悲鳴と共に飛び上がったサニャは振り返りながら、手を振り慌てふためいた様子で喋り始める。

「あ、別にお仕事さぼってるとかじゃないでございます!これはただ、ちょっとあの…って…ローニカさん」

見知った顔にほっとしたらしい彼女は一つ息をつくと照れた様に髪を直してお久しぶりです、と呟く。

「そうですね、お久しぶりになりますね。 …手にしているのは花、ですか?」

「はい、あの…この場所がお好きだったなって、思って。 前にこの花の事、故郷の村の花に少しだけ似ているって仰っていて、それで」

言いながら身をかがめ、向かい合って立っていた大きな木の根元に淡い黄色の花をそっと置く。 そういえば彼はこの木の下でよく読書をしていた。 静かで落ち着いて故郷を思い出すのだとサニャと話しているのを聞いた事もある。

「…本当ならちゃんとお墓にお供えしたいのですけれど。 寵愛者様の眠る所へは私達は入れないって聞いて」

その言葉にローニカは形ばかり行われた”葬儀”の事を思い出す。 
立ち会う者も無くひっそりと済まされたそれや真相についてあれこれ取り沙汰する者も無いではなかったが、なんと言っても城は譲位を控え毎日がお祭り騒ぎの様な状態だ。 自然、王になるとも思われていなかった寵愛者の存在は次第に人々の意識の隅へと押しやられ、今では話題に上る方が稀だ。

結局、彼は城にとっては最初から闖入者でしかなかったという事なのだろう。 むしろ平常に戻ったといえなくもない日々の中でどうして時折取り残されたような気がするのか、うずくまるサニャの小さな後姿を見て ローニカはようやく思い至る。

「……どうして、あんな事に」

振り返ったサニャの目が涙で一杯になっている。

「それはレハト様は寵愛者でございますからアネキウス様のお側にいるのが一番かも知れないですけど、でもまだ成人もされてなかったですのに。 もっとお話を沢山聞いて差し上げれば良かった。 もっと何かしていればって、寵愛者様に大それた事ですけど、でもそう思ってしまって、それで」

「サニャさん」

歩み寄ってローニカはそっと肩に手を置く。

「レハト様がどんなお気持ちでああされたのか我々には本当にはわからないですけれど、人にはそれぞれ一番良い道があるものです。 レハト様もそう信じての行動だったと私は思っているのですよ」

各地に散らばる部下達からは日々報告が寄せられる。 似ているだけと思われるもの、似ても似つかないようなもの、もしかしたらと思わされるもの…。 次の王となるヴァイルの心の内まではわからないが、捕まればおそらくそれなりの処遇をせねばならないだろう。 

逃げ切れるものなら逃げ切って欲しい。 捜索の指揮を取る立場にありながらローニカはどこかでそう願っている。 与えられた全てを捨て光に背を向けて、あんないかがわしい、自分と同じ闇の住人である男の手など取ってしまったのだから。 それが可能な道であったのだと、どうか証明して見せて欲しい。

「それは、でも」

唇を噛んでサニャが口篭る。 真実を知らない彼女にとってはとても納得できる様な言葉ではないだろう。 

「気休めに聞こえてしまうかもしれませんが、レハト様はご自分の事で悲しまれるのを望んでいらっしゃらないように思えるのですよ。 あなたはレハト様がここで穏やかに過ごせるよう随分心を砕いていたのですから特に。 サニャがいてくれて良かったと、いつも話しておいででしたから」

あの日、二人を追って城の外に出た自分の気配を感じて慌てるあの男の傍らで、確かにレハトはこちらを向いて小さく頭を下げた。 気付かれた筈は無い、けれどその姿はここにいると確信している様で思わず頭を下げ返していた。 
どういう思いが込められてのものか、ローニカにはわからない。 ただサニャがこうして自分の為に泣いていると知ればきっと胸を痛めるだろう。 
侍従としての姿は全て偽り、簡単に脱ぎ捨てられる衣と同じつもりでいたのに、気付けばレハトの存在は心の中で決して小さいものでは無くなっていた。 残された者を慰める事が当人は知らなくとも何か役に立つのであれば、柄にも無い考えに内心苦笑しながら涙を拭うサニャの手を取り立ち上がらせる。

「…。あの、ローニカさんは何か…。 あ、いえ、何でもないです! そうですよね、いつまでも泣いてたらレハト様かえって悲しむかもしれませんです。 その人の分まで精一杯生きるのが残された者の務めだって、お父さんも言ってましたし。 悲しい気持ちが消える訳じゃないですけど、でもしっかりしなきゃ」

もしかして何か知っているのか、そう聞きたそうだったサニャは代わりに殊更に明るい声を出して笑顔を作る。 

「その意気ですよ、サニャさん」

彼女が真実を知る必要は無い。 偶然か神の意思か、一時同じ場所で同じ時間を過ごした三人は再び別れ、それぞれの道を行く、ただそれだけのこと。 
サニャはそのまま表の世界に、自分は本来の闇の中に、そしてレハトは何処かもわからない旅の空に。


城へ戻る道を二人で歩きながら、近況を語るサニャの話に耳を傾ける。 主人がいなくなり部屋付きを解任された後下働きに戻っているらしい。 同じ境遇のはずのローニカとほとんど顔を合わせる機会が無いのを不思議がっているので任される仕事が違うとそんなものですね、と曖昧に濁しておく。

「…そうそう、サニャさん。 レハト様のお部屋を片付けた時に幾つかレハト様の私物が出てきたのですよ。そのままでは処分されてしまうとの事でしたので私が一旦引き取ったのですが、何か記念にお持ちになりたいようでしたら」

ローニカの言葉にサニャは暫く考えていたが、やがてあ、と思い出した様に声を上げる。

「あの、窓辺に飾ってあったお人形…。 なんだか不気味でちょっと怖いくらいだったのですけど、これにお願いすると雨が降るんだよってよくレハト様笑ってらして。 もしローニカさんがいらないのでしたら」

言われてローニカも不恰好な人形の姿を思い浮かべる。 口元に浮かべた人を小馬鹿にした様な笑みがどうにもあの男を連想させて、箱に突っ込んだまま机の下の奥に放置してある。 持って行ってくれるのならむしろありがたいくらいだ。

「ありがとうございます! 本当に雨が降るかはわからないですけど、もしそうなら村の皆の役に立つ時が来るかもしれないですし」

「…村に帰るつもりなのですか」

そう聞くとサニャはまだはっきりは決めてないですけど、と笑う。

「…何だか今回の事、答えだった様な気がしてしまって。 それにもしこの先また部屋付きになる機会があったとしても、きっとレハト様にお仕えしてた時みたいではないだろうなあって思ったら、何だか気が抜けてしまって」


辛い事も沢山あったけれど、やっぱりここに来て良かったって思うです、改めて見るとやはり不気味で不愉快な人形を腕に抱いてサニャはお辞儀と共にそう言い残し廊下を去っていく。

その後姿に不意にあの時の光景が重なって見える。 
今どの辺りにいるだろう。 陽の光は変わらず彼を照らしているだろうか、あの男の手を今もしっかりと握りしめているだろうか。

自分の考えに思わずローニカは口の端に苦い笑みを浮かべる。 こんな感傷に浸るなんて老いた証拠だ。


いつの間にかすっかり馴染んでいた侍従としての柔和な表情を消して、彼も自分の世界へと戻っていく。 闇の中に、彼ら二人を追い詰める立場に。 それとは相反する思いを、胸のどこかに抱えたまま。
 
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