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回想からのトッズ愛情Aエンド後。 

村も城も印象値マイナスのレハト。 途中までちょっと暗いです。

・18日最後の方数行を加筆修正しました。





”その額のあざは、

……いったい日に何回、母はその言葉を口に出していただろう。
もういいやめて、これ以上聞きたくない。 喉元まで出かかっているそんな声をどうにか飲み込んで何も聞こえていない振りをする、気がつけばそうやってやり過ごす毎日が当たり前になっていた。

遮っても叫び返しても、両手で塞いで耳に入れまいとしても無駄で、外の目を恐れていたのかいつも閉め切ったままだった薄暗く息苦しい家のどこにいってもあの言葉とじっとりとした視線が私を後ろから追いかけてくる。 
けれど母のその淀んだ目は実際には私を見ている訳ではなかった。 
そこに映っているのはたった一つ、私の額のあざだけ。 私自身は母にとってもう無いも同然だった。
 
朝から晩まで繰り返し繰り返し吐き出される額を隠せ、人に見せるなといううわごとの様な言葉と熱っぽく向けられ続けるうつろな眼差し。 それが湿った息と共にべったりと全身に染み付いてしまって、二度と取れないような気がしていた。 

人前で露にしたりはしていないし、この先も決してしない。 何度そう約束しても納得してくれない。 顔を歪め瞳の奥を不安と疑いに鈍く光らせて、そうして私の母はまたあの言葉を口にする。 …いつか耐えられなくなって掴みかかってしなびたその首を力一杯締め上げてしまいそうで、何よりもそれが怖かった。  

心配しなくても見せる相手なんてそもそも誰もいない。 周りにいるのはいつまでたってもあのよそ者と私達を呼び続ける人達ばかり。 私達親子はお情けで村に置いてもらっていただけだったし、彼らは機会さえあればそれを言葉や態度で私達に思い出させようとした。 
変化らしい変化もない閉鎖的な村に溶け込むには他所から来た母と父親のいない子である私は余りにも目立ちすぎたし、母の様子が明らかにおかしくなってからは余計だった。 それなのにこの上更に見苦しいあざなんかをさらして状況を一層悪くしたりする訳がない。 
いつまでも村の暮らしに慣れず畑仕事に苦労し続けて、私以上に辛い思いをしていた母だってそれくらいわかっていた筈なのに。

みっともなくて人の目に触れてはいけないというなら、どうして母の目はあざを見ている時だけはあんなに輝くのだろう。 うっとりしている様な溜息までついて、ひびだらけの荒れた手で私の顔を無理に押さえ込んで放っておけばいつまでもそうして神だの選ばれただのと意味のわからない事を呟いている。 村の密かな噂通り、その様子はまるでまじないをかける魔術師みたいだった。 

かつての母さんは明るくて良く笑う人だった。 母を母でなくしてしまったのは苦しい暮らしか、私の額のあざなのか、…それともそれをつけて生まれてきた私自身か。  
何故そこまで、このあざにこだわるのか。 
あの頃の私にはどうしてもわからなかった。


みっともないから


ここも同じだ、連れて来られた城でそう気付くのに時間は掛からなかった。 ただあざが印に、よそ者が田舎者に変わっただけ。 言葉や態度の下から透けて見えるものは村にいた時向けられていたそれと余りにも似ていた。 厄介者。 仕方なく我慢してやるだけの迷惑な奴。 

そうは言っても周りには良くしてくれる人もいたし、村にいた頃は考えもしなかった読み書きや計算を覚える機会まで与えられた。 贅沢な着る物や食べ物が働きもしないのに自分のものになった。

けれどそれは全て私ではなく私の額の印に与えられたもの。 額に印があるから、私はここにいる事を許されている。 額に印があるから私は彼らの仲間。 額に印があるから私には仕え、護り、教え、親しくする価値がある。

絡み付いてくる視線の呪縛からやっと逃げ出せた、どこかでほっとしていたのはただの勘違いだった。
誰かの目が額の辺りを彷徨う度に母の湿った息と言葉が何度でも鮮明に甦った。





「ん? そうね、あの頃はジャマだなって思ってたかなあ」

目の前の火に薪を放り込む手を止めて一瞬首を傾げて考え込む仕草をしたトッズはその質問にいつもの軽い調子でそう答える。 余りにもあっさりした返事に思わず見上げた私の表情がよっぽど可笑しかったのか、ぷっと吹き出すと隣に座って腰に手を回し、そのまま腕の中に引き寄せてぎゅっと抱きしめてきた。 
炎の中でぱちんと音を立てて枝が爆ぜ、闇の中に一瞬火の粉が舞って消える。

「そんな顔するような事? これのおかげでこうやってくっつくこともできなかったんだから、別になんにも不思議じゃないと思うんだけど」
 
言いながら私の顔を両手で挟むと上向かせ、自分の額を印のところに当ててくる。 くすぐったい、首を振って逃れようとするとにやりと意地悪く笑って更に強く押し付けられた。 耳元でくすくすとなんだか満足そうな笑い声がして、それを聞いているうちに自分が随分と緊張していたのに気付かされる。 
トッズは印を余り気にしていない感じだったけれど改めて聞いた事はなかったからどんな風に思っているのか今まで気になっていて、でも何となく言い出せないでいた。

「今はもちろんジャマとか思ってないよ? 大事なレハトの一部だもんね。 でもあの時はこんなのレハトからとれちゃえばいいのにって。で、じじいの額にでも張りついたらさぞ愉快だろうになってさ。 …そうすればレハトは自由になれるし、印目当ての貴族だって寄って来たりしなくなる。 とか、まあそんな感じかな」

二人とも同じ気持ちでいたんだから我ながら余計な事考えてたよねえ、そう付け足すとトッズは私を膝に抱き上げて、それから少し心配そうな表情で覗き込んでくる。 

「でもどうかした? 急に印の事なんて。 もしかして城の動きが気になっちゃってたりする? 大丈夫。 レハトは心配しなくても、このトッズさんが危険がない様にちゃーんと目光らせてるんだから。 …あーそうそう、鞄の中に飴見つけたんだった。 ちょっと待ってね……はい」

片手で暫くごそごそしていたかと思うと取り出した飴を私の手のひらに乗せてついでみたいに頭を撫でてくる。 …もう成人したんだから子供扱いしないでほしいって言ってるのに。 

「あはは、わかってますって。 見た目の変化はまだだけどレハトはちゃんと立派な大人だよね。 でもさー、大人のレハトはそりゃもう待ち遠しいんだけど子供のレハトも名残惜しいんだよねえ。 こうして見られるのも後少しかと思うと今のうちにすっごく子供扱いしておきたくなっちゃうっていうか。 …それに子供だって思っとかないとほら、色々困った事になる大人ならではの事情とか…いや、まあ、それは別にいいんだけど、うん」 

俺別にそんな余裕のない男とかじゃないからね、誰に言っているのか夜の闇に向かってそう宣言しているトッズの胸にもたれて少し勢いが衰えてきた炎が揺らめいているのを見つめる。 頭のはるか上にある枝に遮られて隙間からかろうじて月の光が落ちてくる、深い森の中。 自分が足を踏み入れるなんて想像もしていなかったこんな場所にいると、村も城もそこで起きた何もかもが遠い出来事だったような気がしてきてしまう。 ……けれど。

胸の前に回された腕をぎゅっと握るとうん?と声がしてトッズが頬を寄せてくる。

…印が、嫌いだった。 心にずっとつっかえていた気持ちがこぼれる様に言葉になる。 口に出したのはこれが初めてで、言いながら少し体が震えるのを感じていた。 トッズは黙ったまま、ぽんぽんと優しく私の頭に触れてくる。 また子供扱いだけど、今はちょっとだけそれが嬉しかった。
額の印が、ずっと大嫌いだった。 印なんてなければきっと母さんはあんな風に変わってしまわなかった。 
多分その前に村にも行かず、苦労もせずに済んだのに。 トッズがメーレ侯爵の屋敷から逃がしてくれた時怪我したのを見て、また奪われてしまうんだと思った。 私のせいで、印のせいで、大好きな人が、また。    

「……。 …さっきはああ言ったけどさ、俺は好きだよ、レハトの印」

口を開かずにいたトッズが静かにそう呟いて、振り返った私にレハトについてるから好きの方が正確かもしれないけど、と続けて小さく笑う。 そのまま近づいてきた顔がもう一度額のところで重なって、私達は暫くそのままでいた。 くすぐったい、少し落ち着かない感じがする他は何か特別な事が起きる訳ではないけれど、こんな風にトッズが印に触れてくるのは本当は嫌ではなかった。 不思議と安心して、ほっとした気持ちになる。
…母さんにもこうしていたら良かったのかな。 胸の奥にそんな思いが浮かんで、それだけが鈍く痛かった。

 
「…うーん、でもやっぱり、これは誰にも見せないで隠しといて欲しいかな。 いや勿論人目に触れたらダメなんだけど、それだけじゃなくって、さ」

その言葉にかつての母さんの声と様子が頭によぎってちょっと不安になる。 でも見上げてみるとトッズは嬉しそうに顔をくしゃっとさせて笑っていて、すぐに余計な心配をしていただけだと気がつく。 

「きれいでレハトに似合ってるよね。 誰かに見せちゃうの、もったいないから。 成人前のレハトに印がついてるとこは城の奴らとか見てるし、大人になったレハトはこれからいろんな人に会ったりするでしょ。 けど印のついた大人のレハトを知るのは俺だけ。 俺が独り占め。 うん。そうしとこう。 ね?」

わかった、それならしっかり隠しておく。 なんだか子供みたいな事を言うトッズにつられて笑顔になるのを感じながら私もそう答える。 村の暮らしが苦痛だった。 城も好きではなかったし、印が大嫌いだった。 …けれど、それらがなかったらこうしてトッズにも出会えなかった。 そう思うと自分の中で気持ちが前とは少し違うものへと変わっていく。 もう一度、額を合わせたくなって伸び上がると屈み込んだトッズが代わりに素早く唇を重ねてきた。

「…だってもう子供じゃないってレハト言ったもんね」

にやにやしているトッズを見ているうちに更におかしくなってきて声を上げて笑ってしまう。 そういえば、こうしてお腹の底から笑うのはこれが初めてかもしれない。


隠しておきなさい”

大丈夫、言われた通り隠しておくから安心して。 ぎゅっと抱きしめられた腕の中で声に出さずそう答える。
胸に浮かんできた母さんの顔は以前よりも穏やかになっている様な、そんな気がした。 
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