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トッズ愛情Aエンド後。 

愛情エンド後ですが暗めの話です。 全然幸せな展開じゃありませんすみません。





懐かしい夢を見ていた。 一面に広がる鮮やかな黄色い風景と、僕の肩に手を置いて隣に立つ母さんの姿。 
そうだ、母さんに話したい事が沢山あるんだった。 
優しく微笑む顔を見上げながらそう思って口を開いた次の瞬間体のあちこちが一斉に軋みを上げ出して、たまらず目を覚ました僕はそれ以上思い返す余裕もなくただ歯を食いしばって洩れそうになった呻き声をこらえる。 頭は燃える様に熱いのに全身は冷たくて息苦しいし、とにかく気持ちが悪い。 

けれどその激しい痛みや吐き気は始まった時と同じくらい唐突に、ぷつりと途切れる様にして治まった。 小さく息をついて丸めていた体をそろそろと伸ばしていく。 今はそれだけでもひどく億劫で時間が掛かってしまう。 熱っぽいのだけは変わらない額を伝う汗が不愉快だったけれど拭う気力が湧いてこなくて、結局は寝巻きとシーツにしみこんでいくのに任せたまま、僕はただぼんやりと目の前を眺める。 

トッズがとなりに寝かせてくれた、前に城でもらったのとよく似た可愛い人形の黒い瞳がじっと見返してくる。 閉じられた窓の隙間から差し込むまぶしい陽の光が枕元に置かれた白い花を照らしていた。 
夜中に抱えられて入ったから外からは一度も見ていない、トッズが“いざと言う時”の為に確保しておいたというこの家はどこか街中にあるらしくて、子供達のはしゃいで駆け回る物音が外から聞こえてくる。 その楽しそうな声を聞いているうちに気付けば僕の口元もほころんでいた。 少し前まで自分自身が子供だったなんて、なんだかそっちの方がもう信じられない。
 

トッズは珍しく出かけているみたいだった。 静まり返った室内に人の気配はない。 寂しいのと同時にどこか少しほっとしている自分もいた。
あんなにずっと僕の側に張り付いてばかりいたら、きっとトッズの方が先にどうかなってしまう。 

嫌になるくらいのろのろとしか動かない手を毛布の中から引っ張り出して目の前にかざしてみる。 血管が妙に浮き出ていて骨っぽく青白くて、まるで別人の手だ。 
こんな短期間に自分のものではない様に感じてしまう程変わってしまったのは分化の最中だから…では、ないのだろう。 どうやら人よりかなり重いらしい分化に伴う症状が、起きかけてもすぐ消えてしまう事が少し前から増えていた。 ただ体がだるくて頭がぼうっとするだけ。 苦しいより眠い時間が気付けば徐々に長くなっていて……

……それが意味するものが何か、僕は知っている。

胸一杯に広がって押し潰されそうになる悲しみとも焦りともつかない気持ちも、今の僕には荷が重いみたいだった。 すぐに感情ごと全てを覆う様な眠気が押し包んできて、それ以上考えていられなくなる。


後どれくらい、こうしていられるんだろう。
そう思ったのを最後に僕は再び深い眠りへと引き戻されていった。



「…あ、目覚めた? おはよ、レハト。 何か食べられそう?」

手が、温かかった。 絡んだ指と包み込んでくれる手のひらの硬く乾いた感触。 愛おしいぬくもり。 どうにか力を入れて握り返すと、ベッドの側に置いた椅子に腰掛けて顔をうつむかせていたトッズはぱっとこちらを向いて嬉しそうに笑う。

「角の食料品屋のおかみがいい桃が入ったから持ってけってうるさくって。 正直気持ち悪くってそれどこじゃない時期だろうけど、できるだけ食べて体力つけないとね。 辛いのもあと少し、いやー篭りが終わるの楽しみだなー」

にこにこしながらそう続けるとまた浮き出していた汗を拭いて張り付いていた前髪をそっとかき上げてくれる。 鞄から取り出された桃は色も形も見事でよく熟れていて、ああは言っていたけど町の商店に並べられる様な品じゃないのはすぐにわかった。 これを手に入れる為に出かけていたのだろうか。
食欲ももうほとんどなくなってはいたけれど、その気持ちを無駄にしたくはなくて頷くと、慎重に抱き起こされそのまま自分もベッドのふちに腰掛けたトッズが後ろからぎゅっと抱いて支えてくれる。 腕の力強さと温かさに目を閉じてしまいたくなるのをこらえてねだる様に口を開けてみせると、桃の代わりに唇が押し当てられた。 頬を寄せてきてくすくす笑っている声が耳に心地いい。 
いつの間にか開け放たれていた窓から涼しい風が入ってくる。 日の光も大分弱くなっていて、どうやら長い時間眠っていたらしかった。 子供達の遊ぶ音ももう聞こえない。 静かだった。 


むいて口に入れてもらった桃は確かに甘くて香りも良かったけれど、どうしても喉を通らない。 謝る僕の頭を撫でてトッズはいいのいいのと首を振ってみせる。

「しかたないよ、篭りの時期ってそういうもんだもん。 そういや俺も流石に最後の方はそうだったなあ。 ま、俺の時はそんな事言える環境じゃなかったけどさ、レハトにはこのトッズさんがついてるんだから。 わがままも贅沢もうんと言っていいんだから、ね?」

それなら、もう少しこのままで話を聞かせて欲しい。 たったそれだけを伝えるのにも苦労する僕の様子にトッズは一瞬眉をひそめて何か言いかけ、すぐに笑顔になると頷く。

「それじゃわがままじゃなくって俺へのご褒美になっちゃうけどね。 眠くなったら寝ちゃっていいからね。 そうね、何の話がいいかなあ…」


そうして彼は話を始め、その胸にもたれ手を握って僕は耳を傾ける。
城にいる時からずっと、トッズに話をしてもらうのが何よりも好きだった。 いつも初めての、珍しくて面白い話ばかり。 この先ずっと一緒にいればいつかは全部聞ける日が来るのかな、子供の頃の僕は呑気にそんな事を思っていた。
……できたら、そんな日を迎えたかったけど。
 
「……で、俺はとっさにその石を放り投げたおかげで事なきを得たって訳。 いやレハトにも見せたかったなあ、あの信じられないくらい大きな兎鹿! ま、これからもっといいものを見に行けばいいだけだけどね。 そういや他に一緒に何見ようって約束したんだっけか。 雪でしょ、海、古神殿と、後は…」


ああ、なんて。 
なんて、嘘つきな人だろう。
 
覗き込んでは微笑むその顔も、優しく髪を撫でてくる手も声も、本当に自然そのもの。 僕に疑いを抱かせるような素振りは一切しない。 心から楽しく幸せそうで何一つ心配なんてない、満ち足りた雰囲気だ。
こうやっていると篭りさえ終わればすぐにあの扉から出て二人で旅を続けられそうな、そんな気すらしてきてしまう。


気付いてない筈がないのに。
ずっと僕の側にいて、こうして腕に抱けば余計に。
日に日に衰えていく僕の体が男にも、女にも分化できていない事に。


目の下にうっすらと浮かんだ隈以外、内面を窺わせるものを決して見せてくれないなら。
僕が目覚めたのに気付く前、顔を伏せていた時にしていた表情も、夜中に苦しげにぽつりと洩らした言葉も全部、僕を穏やかに過ごさせる為に押し殺してしまうのなら。

……僕がとるべき道も、一つだけなのだと思う。

「ん? ああ、そうね。 それ大事、勿論すっごく大事」

すぐは無理でも、いつか故郷の村にトッズと行きたい。
か細い僕の言葉を耳を近づけて聞いていたトッズは真面目な顔をして大きく頷く。

「まあ今は城の監視があるだろうけどいずれ絶対に行きたいよね。 村の人にもちゃんとレハトの旦那さんですって挨拶しなきゃ。 レハトのお母さんにも報告しないと。 …事後報告になっちゃうけど、しないよりは、ね?」 

皆驚くね、笑った僕をぎゅっと抱いてトッズも笑い、その声で近づく夜の気配に沈みかけていた部屋の中がぱっと明るくなる。
そろそろ休まないと、そう言ってベッドに戻した僕が眠るまでトッズは手を繋いで側で微笑んだまま見守っていてくれた。



城にいた時からずっと貴方だけを、その言葉や仕草だけを長い間とはいえないけど一番近くで見てきた。
だからトッズ程じゃないにしても僕も気持ちを隠したまま、きっと終わりの時まで上手く振舞える。

連れ出した自分のせいだなんて思わないでとか僕の事は忘れてもいいから幸せになってとかやっぱりほんの少しでもいいから覚えておいてとか。
本当は言いたい事が沢山あるけど最後まで僕が幸せで、何も疑わずにいるのをトッズが望むなら。


大好きな、うそつきな人。 どうかその瞬間まで笑っていて。
トッズの望みが僕の望みだから。 トッズが笑ってくれるなら僕は幸せだから。
そうしてさえいてくれれば僕は貴方の望むとおりの僕でいられる。
だから、どうか。 僕の愛しい、嘘つきな人。

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