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トッズ友情ルート経由の愛情ルート。 護衛就任後。

滑り込め…なかったエイプリルフール話。



もたれかかっている大きな木の上を風が渡るたび葉ずれの音がして、読み進んでいるページに落ちた木漏れ日が踊るように形を変える。 きっと訓練場からだろう、時折遠くの方で何かが打ち合わされたり声が上がるのが聞こえる他は邪魔するものも無い絶好の読書日和だ。 
居心地が良すぎて全部放り出して昼寝でもしてしまいたくなるのが逆に困る位、そう思いながら先程から何回読んでも頭に入ってこない文章をもう一度追おうとした時、不意に上から声が降ってきてそれと同時に伸びてきた手にひょいと本を攫われてしまう。

「もー本当好きだよねえレハトは、本。 でもそんなに根詰める必要も無いんじゃない? レハトの知りたいことだったらトッズさんが何でも教えてあげるって」 

いつの間にか僕の前に立ってにやにやしていたトッズに向けて一応手を伸ばしたのはどちらかといえばお愛想みたいなもので、どうせ返してくれる気が無いのは顔を見ればすぐわかる。 それに正直なところ面白くて読んでいたのでは無いから大して取り返したい訳でもない。

「ふうん、読む前に手巾の御用意を。恋する二人に次々と訪れる危機、試される愛の絆ねえ。 レハトもこんなもの読むんだね。 ちょっと意外だわ」

ぱらぱらと捲りながら気の無い調子でトッズは呟いている。
単に社交上の必要にせまられての事だ。 どんなに興味の無い内容でも一応流行り物は頭に入れておかないとこっちが馬鹿にされる。

「まあね、確かにね。 なーんだ、ようやくレハトも色気に目ざめてくれたかと思ったのに。 そしたら本じゃわからない実践的な恋の手ほどきってものをこの俺がじっくりと…」 

これまでも散々聞かされた言葉を途中で遮って”万愚節”というものを知っているか尋ねてみるとトッズは首を傾げる。 彼が取り上げた本の中で僕もさっき見たばかりだ。 どうやら古い風習であるらしいそれをなるべくかいつまんで説明してみる。

「つまり言う側も言われる側もお互い承知の上で他愛ない嘘を付き合う、と。 …何だかなあ、牧歌的っていうか、非生産的っていうか。 俺だったらその労力をもっと有益な事に使いたいけどね。 ……大体さ、すぐに嘘とわかる嘘もすぐにはわかんないのも嘘に見える真実も、城ん中には山ほど溢れかえってる訳じゃない? この上更に年一の行事でやったらえらい事になるって。 今に伝わってないのは案外そんなとこじゃないの」

すぐに嘘とわかる嘘とは例えば純真な子供の精一杯の告白を真に受けた振りして外に誘い出してくる自称商人の事か。 僕の言葉にトッズは情け無い顔で苦笑いをしている。

「…厳しいなあレハトは。 レハトの目に俺がちょっとやそっとじゃへこたれない強くて頼もしい男として映っているの自体はいいんだけどさ、その裏に消えない罪悪感が無い訳じゃないのよ? ……それに、それを言うんだったら、さ」

意味ありげに視線をよこしつつ語尾を濁したトッズがそれ以上言う気が無いのを知っているから僕もあえて知らん振りをする。 …嘘だとわかっていたのは確かに僕の方だ。 

嘘でも別に構わなかった。 この場所で徴を乗せる台座程度にしか見られていなかった僕を対等な、一人の人間として扱ってくれたのはトッズだけだった。 もちろん目的あっての事なのはわかっていたけれどそれは僕の方も同じだったし、初めの頃は余計な気を回さずに済む分下心ありきの付き合いがむしろありがたかったくらいだ。
……それがいつか自分の気持ちがこんな風に変わってしまうなんて。 
二人目の寵愛者として存在が貴族達に明らかになった以上、僕の未来は決まってしまった様なものだ。 どうせどこに行っても同じなら、彼の役に立てればそれでいいと思った。
 
「ほーんと、無謀なお子様だよ。 …あん時は肝が冷えたったら」

どさりと隣に腰を下ろしたトッズが僕の肩に手を回して溜息混じりに呟く。 トッズがそれを言うのか、そう返すと違いないねと大きく頷いて楽しげに笑っている。 
そのまま二人して暫くぼんやり目の前の風景を見るともなく見ていた。 相変わらず遠くから時々鈍い金属音と衛士達の掛け声が聞こえてくる。

「まあ、でもなんてったっけ、万愚節? なんか説教くさそうな名前はどうかと思うけどたまにはそういう息抜きもいいかもね。 お前さん、只でさえ本音を隠して言わないタイプだしな。 でも他の奴にやって大事になっても面倒くさいから俺に言うといいよ、他愛無い嘘。 何でもどーんと受け止めたげるからさ」

……突然そう言われても困る。 トッズにはむしろ遠慮なく喋っている方だし急に思いつくものでもない。

「別に何でもいいんじゃないの。 んー、レハトの礼法の先生は兎鹿そっくりなんかじゃありません、とかこないだレハトにぶつかって嫌味言った貴族は濡れ雑巾に生き写しじゃありませんでした、とかさ」

それじゃ嘘というより悪口だ。 第一あの子爵が頭からびしょ濡れになったのはトッズの仕業だったのに。 
思わず吹き出した僕を見て自分も口の端に笑みを浮かべると、次々その調子で並べ立てながら僕を促してくる。

……僕は、ずっとこのままの関係で良いと思っている。 

彼を真似ていくつか嘘とも言えない様な嘘を口にした後、思い切って前を向いたまま一息で吐き出した。 傍らのトッズが一瞬だけぴくりと身じろぐ。 
一度ちゃんと聞きたくて、でもどうしても今まで切り出せなかった事だ。 
嘘にできる今なら、言える気がした。

トッズの立場を考えればこのまま成人しても、というより大人になったら余計二人の関係が公に認められはしないだろう事は容易に想像がつく。  

…彼は、それでもいいと考えているのか。 それを知りたかった。

「…。 レハト。 今から言うの嘘だから。 単なるつまんない嘘だけど、もし俺が、さ…」

言いながらトッズの腕に力がこもり、自然彼と向かい合う形になる。 見上げた瞳が今までになく真剣な光を宿していて、僕は吸い寄せられたように目を離せなくなっていた。 
顔を近づけ、潜めた声でトッズが続きを話し出そうとした時、

「…! ちょっ…ちがうっつーの、もう! 誤解だよ誤解!」

突然後ろに飛びのいて汗びっしょりのトッズがあらぬ方を向いて騒いでいる。 
何というか、そろそろこの光景にも大分慣れてしまった。

「ったく本当に、もう…。 ああ、そういやじじいに呼ばれてるんだった。 これ以上ここにいると今度は何されるかわかんないから俺行くね。 …続きはまあ、機会があったら」

溜息をつくと僕の膝に本を戻して力なく手を振り、トッズは木立の向こうに消えていった。 
静けさが戻る中、もう一度開いてはみたものの本の内容は頭をすり抜けてまるで理解できない。 
彼は何を言うつもりだったのだろう。 “もし俺が” その後に続く言葉が、もし僕が望むとおりのものだったとしたら。

僕は何があっても絶対にトッズを諦めたりしない。

嘘として口に出す気にはなれず、もう一つの言いたかった事を代わりに一人胸の中で呟いた。 繰り返して何度も、決意を新たにするように、誰かに宣言するように、強く。

僕は何があってもトッズと、僕の未来を諦めたりしない。
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