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トッズ愛情ルート。 護衛就任してすぐ。

レハトにセリフが少々あります。




いやあ、なんだろね、これ。

正直驚きとか喜びってよりも呆れてるかもしんない、俺。
こっちを振り返ってついてきてるか確かめようともせずにやたら早足で歩く爺さんの背中を追っかけながら、周りを見回してつくづくそう思った。
こんな手の込んだ罠を仕掛けて貰える程の重要人物になった覚えもないし、怪我がこう痛むんじゃ夢って訳でもないだろうし。
まだどっかに嵌められてるんじゃないかって思いはあるけど、でもどうやら現実で間違いないらしい。

完全に捨てたつもりだった、むしろこれで失くすなら上出来じゃないかと思ってた命を拾って、それどころかあれよあれよという間にレハトの護衛に任命なんてされてる自分を発見して。
気づけば今朝まで素性を隠して入り込んでた城のそれも中心部に、かどわかすつもりだった当の相手の使用人としてこうして立っている。
流石にこんな事態の想定まではしてなかったな。 いくらなんでもいきなり劇的過ぎだろ俺の人生。

塔の階段を幾つか上がった先に伸びる静かな廊下を少し歩いた所で爺さんが足を止めたから、適当な距離をあけて俺も立ち止まった。 別にそんなに背中に力入れて”お前の事が気に食わない”って主張して見せてくれなくてもいいのに。 
俺もあんたが気に入らないよ、今は単なる憶測に過ぎない、この考えがもし当たってんならね。
……気が合うよね。

「…こちらでございます。 中でレハト様がお待ちですので、どうぞ」

取ってつけた様な馬鹿丁寧な声と裏腹の渋面にとびきりの愛想笑いを返して、爺さんが一緒だからか大してこっちを気にしようともしない衛士の横の扉を抜けて室内に入る。
神の代理人、次代の王候補の一人たる寵愛者様…の私室の割には広さもそれ程じゃないし調度品も控えめ、質の方は勿論間違いないけど正直な所けっこう質素な部屋だ。 突然見いだされて準備が、とか田舎育ちだから気後れしないように、とかもっともらしい理由はついてくるんだろうけどさ。 どうにも色んな思惑が透けて見えるようで、まあ俺が言えた義理じゃないんだけど。 

そんな事を思いながら部屋の中を観察していると奥の扉が開いた。 俺の用意した地味な服から元通りに着替えたレハトが歩いてきて、そして俺を見るなりはっとした様な顔でその場に立ち尽くす。 
…あれ、なにその反応。 血で汚れた服で城内を歩き回るなって貸された侍従の上着が珍しいせい? …それにしては表情もなんか固くないかな。 疲れてるのかも。 そりゃあんな事があれば当然だろうけど…

「お疲れの所申し訳ございません。 この度レハト様に新しくお仕えする事になった者が改めて御挨拶に参りましたので」

爺さんに続けてお辞儀してみせた俺の方を向いてはいるものの唇を噛んで少し離れた所に立ったまま、目を合わせてくれようともしない。 その上口を開いて言ったセリフがでもそれってやっぱり危ないよね?とかそんな風だったからそこで飲み込めた。

ああ、やっぱり怒ってるんだな。

そっか。 …そりゃそうだよね。 
さっきはその場の勢いに流されたけど落ち着いたらようやく理解できて許せなくなったってとこか。 俺でも展開についてけないと思ったくらいだ、今まで誘拐だの陰謀だのなんて汚い世界と縁の無かったレハトがすぐにわからなかったとしても無理ないか。

仕方ないのかな。 うん、仕方ないんだろうな。 だって実際騙したんだもんな。 それも好意に付け込む酷い方法で、胸糞悪い結末になるの知ってて。 
考えながら足からすうっと力が抜けてく感じがするのが我ながらおかしかった。 正に自業自得って奴だ。

おいおい、トッズさん? お前さんひょっとして本気で期待してたとか?

俺の中のいたって冷静な部分がからかい混じりの声を投げかけてきて、

まさか。 こんなムシのいい話、どう考えたっておかしいでしょ?

心にじわりと広がる痛くて仕方無い何かを押しのける様に急いで答える。 ……まさか、ね。
望んだりできる立場じゃない事くらいもうとっくの昔にわかってる。

寵愛者様を誑かそうとした悪人は自分の行いの報いを受けました、こっちの方が筋も通ってるし。
ここでこうなっておいた方がお互いの為ってもんだろうし。


…だけど笑顔は無理にしても最後に見るならもうちょっと違う表情だったら良かったな。
それにできたらさっき、あそこで見送ってくれたら格好も気持ちの整理もついてたんだけどね。
文句言える立場じゃないからしょうがないけど。

「それって俺の腕前が疑わしいって意味? まあ、確かにそこの爺さんに見せ場持ってかれちゃったか。 でもそれまでは活躍してみせたでしょ? 俺だってせっかく拾った命は惜しいし大丈夫、こうなったからにはちゃーんと働きますってば」

決定的な言葉を言われる前にけりをつけてしまおうとにやにやしながらそんな感じで返そうとした時、何か違う、その事にようやく気が付いた。 レハトはさっきからずっと視線を逸らしてる訳じゃなくてどうも俺の二の腕の辺りを気にしてたみたいだった。 一応の手当はしてもらってあったけど動かしたせいか見れば借りた上着にまでまたうっすらと血が滲み出している。 今度は俺の顔をまっすぐ見上げて、もう一度レハトは同じ言葉を口にした。 大きな目を更に見開いて、気遣わしげな表情で。


……ああ、違った。 そっか、そうじゃないんだ。 
危ないって俺の身の事か。 俺の事を心配してくれてるのか。
 
やっと理解できて、その瞬間今まで経験のない妙な感情が腹からせり上がってきた。 ぎゅっと胸が苦しくなって喉にまで変な塊がつかえたみたいになるし、唇まで震えそうになってて一瞬この俺が上手く喋れないんじゃないかと思った。 後ろに立つ爺さんに気取られない様に小さく息を吸ってから進み出てそっと頭に手を置くと、びくりとしたレハトは身を震わせて腰にしがみついてくる。 今にも泣きそうな顔をしていた。

「…ありがとな、心配してくれて。 でも大丈夫。 もう二度とレハトを危険な目になんて合わせたくないから。だから俺にお前の事、守らせて?」     

まだ不安そうなままで、でもそれを下手くそに隠そうとしながらレハトはようやくにっこりしてくれた。 その笑顔があんまり純粋できれいでさっきこらえたものがまた溢れそうになってくる。 ああもう、なんてお人好しで単純で、わかりやすくて可愛いんだろう。 可愛くて愛おしくってたまらない、俺のレハト。 

「…レハト……って、ちょ、うわっ!?」

抱きしめようとして手を伸ばした途端とんでもない力で体が後ろに引きずられた。 抵抗する間もなく襟を引っつかまれて驚いているレハトから引き離されると、そのまま爺の奴に部屋の外へ荷物みたいに無造作に放り出される。 
なんだくそ爺、いい年して嫉妬か。 若い二人の恋の行方一つ微笑ましく見守れないなんてさては碌な年の取り方してないな。 どうだ図星だろ。

腹の中で毒づきながら、本当はどこかで少しほっとしてもいた。 まだ気持ちがざわついて仕方がない。 
目の奥が熱くてなんだかちくちくする。

「では御挨拶も済みましたし参りましょうか」

乾いた目のふちをこすってる俺に、後から出てきた爺がにこやかに話しかけてくる。

…はいはい。
そんな殺気全開の背中についてくの、怖くって仕方ないんですけどね。 
とはいえ今日起きた他の事に比べたらこれはずっと理解できるし馴染みもある。
そう思ったら苦笑いがこみ上げてきた。 全く、酷い話だ。
こんなんだから素直なレハトの表情を読み間違ったりするんだろう。 


立ち位置こそその時々で多少変わりはしても俺達みたいな人間がただの駒、使い捨ての使いっ走りなのは基本どこへ行った所でおんなじだ。 もう今さらそれについていちいち考えたりなんかしないし、そもそも俺達の仕事は危険なのが大前提みたいなもんだ。 
ガキの頃「にんむ」で生き残った時に他の奴らと手を打ち合わせて喜んだ事はあったけど、あれだって別に互いの無事が嬉しかった訳じゃない。 ただ今日のところは死なずに済んだらしい自分の悪運をそれぞれに噛みしめてただけ、その瞬間が過ぎればまたすぐに敵同士、そいつらを蹴落とさなきゃ次は無い。 
……心配するとかされるとか、ああ、意味は勿論知ってる。 言葉として使った事も何度だってある。 
けど、そうか。 …こんな気持ちになるものか。



その晩はなかなか寝付けなかった。 色々あったし、傷は痛むし、それにきっと枕が変わったからだ。 誰も聞いてないのに胸の中で呟いて狭い寝台に寝っ転がったまま、窓から差し込む月の光に照らされてる汚い壁をただぼんやり見るともなくずっと見ていた。



枷のようにつなぐもの (2)
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