FC2ブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
トッズ愛情ルート。 護衛就任してすぐ。 一部ゲーム中のセリフを引用しています。

レハトにセリフが少々あります。
もしかしたらやや暗めかも。

枷のようにつなぐもの (1)の続きです。



辺り一面に咲き乱れてる花の香りで、胸に吸い込んだ空気までが何だか甘い気がしてくる。
空は青く日差しは眠気を誘う様にどこまでも穏やかで暖かくて、聞こえてくるものといったらどこか離れた場所で植木を剪定してる庭師の規則的な鋏の音か鳥の鳴き声くらい。 
そんなのどかな中庭で俺は身を潜めていた植え込みの陰からほんの少しだけ顔を出して、慎重に周囲の様子を窺う。
……どうやら大丈夫そうだ。
目の前の回廊をこっちに向かって歩いてくる足音はレハト一人分のだけ。 俺への殺意丸出しの気配もとりあえずは無い。

まったく、やんなっちゃうよね。 こうやって僅かな隙でも狙ってかないと、爺さんの妨害で俺一生レハトに話しかけられそうにないんだもんな。 
いくら自分が老い先短い寂しいじじいだからってほんと陰険で性質悪いったらありゃしない。
まああんな老いぼれなんか今はどうだっていいんだけどさ。


「へい、そこ行く坊ちゃん、お花はいらんかえ? 」

音を立てずに回り込んで後ろから掛けた声に、廊下を行くレハトは小さく息を呑んで立ち止まり向き直ると慌てて駆け戻ってくる。
良かった、顔を泣き笑いみたいな表情にくしゃりと歪めて心底安心した様に言われて、俺の方が戸惑った。

護衛になると聞いていたのに全く姿を見ないからとても心配していた。
もう体は大丈夫なのか、動き回っても平気なのか、医士にはちゃんと診てもらっているのか。
俺の服を両手で握りしめながら矢継ぎ早に続ける言葉でやっと、この前の怪我の話をしてるのだと気が付く。

……そっか。 あれからずっとそんなに気に掛けてくれてたんだ。

途端にまた誰かに掴まれでもしたみたいに胸がぎゅっと締め付けられて、そっちの方がまだ塞がってない傷なんかよりよっぽど痛い。

「やだなあ、あんなのもう全然平気だって。 元気元気。 第一俺には可愛いレハトを守るっていう大事な使命があるんだからね! 休んでなんかいられませんって」

それを振り払うように笑顔を作って平静な振りして、<メーレ侯爵>のその後や行方についてや、その他にもただ思いつくままに喋り続ける。
気付かれる程ではないものの、いつもよりほんの少しだけ早口になってるのが自分でわかった。
ああ、調子が狂う。


言われるまですっかり忘れてた…てのは流石に嘘だけど。 動かすのに支障は無いし、幸い後遺症も残らなそうだから正直もう大して気にしてなかった。
この程度で一々騒いでたら密偵なんて務まらないし、一度そう判断されてしまえば代わりなんてそれこそ掃いて捨てるほどいる。
だから。
なのに。


レハトにこんなにも心配してもらってもちろん嬉しくない筈がない。 でも素直に幸福感と呼んでしまうにはこみ上げてくる感情は余りにも馴染みがなく収まりが悪くて、しかも腹の中でいつまでも跳ね回って静まろうとしない。
表面上だけはほぼいつも通り、へらへらしながらはぐらかす様な話して何事も無かったように振舞えてるのが救いだった。

……。 なんか俺、もしかしたらこういうのちょっと苦手かもしれない。


そのレハトはまだ曇った表情のままだし俺は落ち着かないし、何かもっと違う話題にしようと探していると視界の隅になにやら白いものが映りこむ。
確認しようとそっちを向いて一瞬凍りつく。 これ以上ないって程の渋面が文字通り目と鼻の先にあった。
思わず声を上げて飛び退った俺の真横に立ってた爺の奴はじろりとこっちを睨みつけると、わざわざ俺達の間に入り込んでから一礼してくる。

「……どうも、はじめまして。 この度、レハト様付きになられた商人の方ですね」

くそ、一体いつからいたんだじじい。 気抜いてた訳じゃないのにまるで気付けなかった。 化け物か。
どこかでちょっとほっとしてる自分がまた忌々しい。 何で爺なんかに救われたみたいになってんだか。

「何かお品物を持ってこられたのでしょう? どうぞ、お部屋の方へいらしてください」


警戒も虚しく邪魔が入った以上二人きりでいられる訳も無く、促されるまま御用商人とその雇い主としてレハトの部屋へと移動する事になる。
陽の差し込む廊下を離れて空気のひんやりした塔の中へ足を踏み入れると、不意にそれまで黙って隣を歩いてたレハトがでもあんまり無理しないでね、と前を向いたままぽつりと呟いた。 

「…うん。 ありがとね」


でもね。 無理でもしないと、それもかなりの無理じゃないと俺みたいのはお前の側になんていられないのよ。

後に続く言葉は飲み込んで、代わりに爺さんに気付かれない様体の影で小さな手を捕まえて素早く握ると、ぱっと可愛い頬を上気させたレハトは嬉しそうにしっかり握り返してくれる。
女の肌の滑らかさは勿論無いし、ずっと労働してきたとすぐにわかる固く骨ばった感触だけど、その体温を感じているだけで自然と口元が緩んできてしまう。
流石に柄じゃないだろって思いつつも、にこにこして足取りまではずんでるレハトを見てるとそれでも別に良いかって気がしてくるんだからもうほんと、どこまでも始末に負えない。


こんなうさんくさい男の口説き文句真に受けて照れたり喜んだり、あの頃は疑いもせずに無邪気に笑う姿に内心苛ついて仕方がなかった。
おかげで仕事は想像以上にやり易くて大助かりではあったんだけど。

ここは元いたのどかな田舎の村じゃないし、周りにいるのは俺も含めて親切面を作ってみせるのが上手いだけの悪党だらけ。 少し頭を働かせば自分の置かれた立場くらい理解できるだろうに、何の警戒もしようとしない、つくづく救いがたくて甘い馬鹿な子供。
お守りさえ終われば二度と顔を合わすこともないから暫くは我慢、開放されりゃさぞ清々するだろう。
……そんな風に思ってたってのに。

今じゃこうやって笑いかけられると苛立つどころか胸の中が温かいもので一杯になって、視線が逸れただけで途端にどうしようもなく不安になって、もうレハト無しでは生きていけそうにもなくなってるのをその度毎に思い知らされる。


……ああ、こりゃとんでもない弱みを抱え込んじゃったもんだな。 

余裕ぶって苦笑いしようとして、その口元が僅かに強張って引き攣れた。 同時に背筋を駆け抜けた冷たいものに、規則的に立てていた足音が危うく乱れそうになる。
途端少し前を行く爺さんの肩がぴくりと動いた気がして慌てて動揺を押し殺しはしたものの、自分自身までは誤魔化せなかった。 
怖かった。 こうやって手を繋いでなかったら今にもみっともなく震えだしそうだった。
 
これまで自分の中にぽっかりと大きな穴が開いてたんだって初めて気付いた。
レハトが埋めてくれたから、そんなものがあったんだって事に気が付いてしまった。
知ってしまった。
知ってしまった以上きっともう二度と元の俺には戻れない。

全身が一瞬ですうっと冷えていって手の中だけが温かい。
大人に持たされた玩具みたいな刃物で初めて人を殺した時よりも、追い落として、陥れて、踏み台にして生き延びて、今日こそは俺の番かと夜が来る度薄目を開けたまま他の奴らの寝息に耳を澄ましてた時よりずっとずっと、この温もりとそれを失うのが恐ろしい。怖い。
 

思わずすがるように引き寄せて籠めていた手の力に一瞬驚いた表情をしたレハトはこれからはずっと一緒にいてねといかにも疑いもしない子供らしい、無邪気な言葉と共に微笑む。
まるで俺に対する復讐みたいに甘い甘いその笑顔に囚われてもう身動きできなくなってる自分を感じながら、俺は腹の内の幸福感とも恐怖ともつかないものを吐き出してしまわないよう、ただ黙って笑い返す。
いつも通り、そう見えてることだけをひたすら願いつつ。




△▽△▽




「…じゃあ間違いなく……」
「…う一人……きっと…の様子じゃ…」
「……王配…お互い……」

声を潜めての思わせぶりな話の途中、不意にわっと上がった歓声が思いのほか神経に障って、つい舌打ちしたくなる。
それをこらえて耳を傾けるもどうやら持ち寄った噂話もそろそろおしまいらしかった。 慌しくそれぞれの方向に散っていく侍従の一人がこちらに向かってくるのを、柱の影でやり過ごしてから俺も再び歩き出す。

心配してもらった怪我も治ったし、護衛の立場にもすっかり馴染んだ。 そしてその時間の流れの中で変化していっているのは俺ばかりではないのだと、今の話で改めて否応無しに認識させられる。

少し前とは比較にならないほどこうやってレハトの噂を耳にする機会が増えていた。 
爵位。 有力貴族の強い関心。 そして、王配。
どれも以前のレハトとはおよそ縁の無かったような言葉と共に。

例の件が起きるまでは、居場所を求めるみたいにしょっちゅう市に来ては俺の横に座り込んでばかりいて、他に親しくしてる人間もいなさそうだった子が、今では別人の様に色んなとこに出入りしては人懐こく誰にでも話しかけている。 舞踏会や御前試合も苦手ではなくなったらしい。

そうした様子に年明けが近づいて焦ってる、いかにも田舎者らしい品の無い振る舞いだなんて殊更に眉を顰めてみせるような輩もいるけど、実際には最近の評判は決して悪いものじゃない。
自然、周りを囲む人間の数が徐々に増えていって。 それに伴って気楽に声を掛けられる場面が少しずつ減っていく。


…ここで流石俺のレハト、努力してて偉いなあって素直に思えないのが俺なんだな、ってあんまりありがたくない発見もした。
勿論居心地良くなるならそれに越した事は無いし、楽しそうな表情が増えてくのにも文句なんてある訳がない。
でもその気持ちの裏側でもう一つ、焦りにも似た鬱屈した思いが抑えようも無く湧き上がってきてしまう。
連中の下心が透けて見える友達面が勘に障る。 手のひら返して取り込もうとする奴らの存在がどうにも面白くない。 ああ、全くもって何もかもが気に入らない。

レハトもむやみに笑顔の大盤振る舞いなんてしてないで俺にだけ取っといてくれたらいいのに。 
そんな風に髪に絡んだ葉っぱを払って、頬についた汚れを拭ってやって、優しく笑ったりしたら相手だって期待するかもよ?


人気の余り無い中庭の奥の更にうっそうとした木立の中、そこだけ真っ直ぐに陽の光が落ちてくる小さい広場っぽい場所で、レハトとその隣に腰を下ろしたもう一人の候補者様は互いの額の印を付き合わせる様にして、一冊の本を覗き込んでいる。
最近この王様候補とはとりわけ仲が良い。 まああっちは元からレハトに好意的だったみたいだけど。  
一緒に勉強をしたり連れ立って辺りを駆け回ってる姿は当然周囲の目を引いて、そろそろ貴族の中にもおおっぴらにそれを口に出すのが現れ始めていた。 
普通ならただ単に子供同士が仲良く遊んでる微笑ましいってだけの光景でも、思惑まみれのこんな場所と二人の立場じゃ、どうしたって勘繰って余計な気を回そうって奴が地位を問わず出てくる。

……そしてそれは俺自身にしても同じ事。 割って入って引っぺがしたいってこの短い時間でもう何回考えてるだろう。
自分の心の狭さがつくづく嫌になる。


そうやってべったりくっついていた次の王様は、暫くして本に飽きたのか勢い良く立ち上がる。 そしてレハトの手を取って引きながら城の方を指してしきりに何か誘い出した。 
そのいかにも心を許してるって感じの仲良さげな雰囲気に、さっきの侍従たちのお喋りを思いだして胸がざわつく。

けど本の続きが気になるらしいレハトは座ったまま断る仕草をしてみせて、候補者様は明らかに気落ちした様子ではあったけど、すぐに立ち直って元気良く手を振ると傍らの茂みに駆け込んでった。

早くどっか行け。 そんで戻ってくんな。

木の枝を掻き分けて遠ざかる騒々しい音にもう一つ、知ってる気配がぴったり付き従ってる。
護衛が専門のこっちと違って表向きの仕事だってあるんだろうに、爺さんといいこんな事にばっかりまめな奴らだよな。 むしろ逆に感心する。


「見ーつけ。 探しちゃったよーレハト。 ね、ね、何してるの? 」 

周囲が完全に静まってから出て行って声を掛けるなり、レハトは顔を輝かせて嬉しそうに駆け寄ってきてくれた。 広げた両手の中にためらい無く飛び込んでくる仕草が嘘みたいに可愛くって、思わず抱き上げておでこに唇を押し付ける。
真っ赤になりつつも俺の首にぎゅっとしがみつく体から伝わってくるのは、陽だまりのにおいともどかしくも心地良い子供の体温、早まった鼓動の音。


……良かった。 俺は今もちゃんとレハトの特別だ。

あんな噂話なんてレハト本人の気持ちと何の関係も無いってわかってるのに、安堵感が眩暈みたいに全身を押し包んで、自分でも可笑しいくらいほっとしてる。

柔らかな髪に頬を寄せた俺の頭の中で、このままさらって逃げてしまえと声がしきりにそそのかしてくる。 その囁きにうっかり耳を貸したくなる前に一旦地面に降ろそうとして、足が固いものに触れた。

「おっと。 ああ、本か。何の本読んでたの? せっかくのお休みなのに随分と熱心だね…って、うわ、こりゃまた」

元の場所に座ったレハトに題名を見せてもらっただけでもううんざり、内容を説明してくれようとするのを大丈夫だと押し留める。 実際に生きてくのには何一つ役に立ちそうにもない、黴臭そうでやたら難しそうな学問の本。 

雨が降って混み合った薄暗い図書室の隅で、完全に気後れした顔して教本を抱えていたのはついこの間だったってのに、空恐ろしいな。
寵愛者は人の何倍も吸収が早いって話は本当なんだ。

「お勉強もいいけどさ、そんな本じゃわかんないことも世の中には一杯あるのよ…ってこれは前にも言ったっけ。 ちょっと息抜きに俺の話でも聞かない?  仕入れたばっかりのとっておきの奴。ね? 」

そのままページを捲ろうとした手を捕えて握り込んで引き寄せて、本に目がいかない様に顔を近づけて覗き込む。
再び耳まで赤くなったレハトは少しもじもじしてから頷いて、邪魔物を脇に除けてくれた。  

別に困らせたい訳じゃない。 ジャマして足引っ張ろうとかでももちろんない。
でも俺の方を見て欲しくて、これ以上他の何かにレハトの注意を持っていかれるのが癪で、子供じみた真似なのはわかってるのについこんな振舞いをしてしまう。
爺さんがその辺にいたら間違いなく後で殺されるな、内心溜息と共に思った時
ありがとう。 唐突にお礼を言われて面食らう。

「んん? どしたの突然? 」

ずっと城での暮らしに慣れられずに不安で仕方がなかったけれど、トッズが側にいてくれるから頑張ろうと思ったのだ、と続けるレハトは、頭の上の空よりも曇り無い目をしていて俺をどきりとさせる。


故郷の村にいた頃、たった一度だけ貴族を見る機会があった。
視察に来た領主様は夢みたいに奇麗な服を着て難しい言葉で喋って、まるで別世界の人みたいだった。 
自分や友達は怖い様な憧れる様な気持ちで、遠くからこっそり覗き見ていた。 

それが城に連れてこられたら、周りは領主様より更に着飾ったまぶしく立派な貴族だらけで、その人たちが自分を様付けで呼んで恭しく頭を下げてくる。 でもそれは表向きだけ、文字は勿論、彼らの言葉遣いも作法も何一つわからなくてその度に影で馬鹿にされて、そうしている内にどんどんここにいるのが苦痛になってしまっていた。 


でもトッズがあの人達をそんなに怖がらなくてもいい事に気付かせてくれた。 それにいつも一緒にいてくれていると思うとどんな場面でも安心していられる。
いい所も段々見えてきて、ここで暮らすのが好きだと初めて思える様になった。
だから、ありがとう。

まだ握ったままだった手に、話し終えたレハトのもう一方の手がそっと添えられる。

「ああ、うん。 レハトが凄く頑張ってるの、俺もちゃんと知ってるよ。 俺はレハトの為だけにここにいるからね。 一杯俺の事、頼ってくれていいんだからね! 」

きっともっと嬉しく感じられてもいいんだろうに、笑って喋りながら俺の中でレハトの言葉の一つ一つが、小さい塊になって雪みたいに重く冷たく沈み込んで積もっていく。

城が自分の居場所だって決めてしまっていいの? 
貴族の中で奴らに染まって生きていくの?
その下で膨れ上がる苦い気持ち。

外にはもっと他の世界だって広がってるっていうのに。 
……お前が望んでくれさえすれば連れて行ってやれるのに。

口に出せる筈も無い思いを抱えたまま、俺はただいつも通り返事をして何事も無い振りを続ける。
その嘘とごまかしだけで出来上がった俺に向けられる笑顔はやっぱり心を一杯に満たしてくれて。
満たされてる筈なのに何故か全然足りなくて。


……なんだか泣きたい様な気持ちになった。

スポンサーサイト

コメント - 0

新着記事一覧
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。