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トッズ友情Aエンド後。 レハト男性を選択。

サニャと印愛・好愛高。

侍従組は基本ずっと一緒なんだから夜にも「最後の日」チャンスがあるといいのに。




二人きりの小部屋で僕は机を挟んで向こうに腰掛けたトッズをぼんやり眺めていた。 この前の仕事が予想以上に上手くいったせいなのかどうか、カップを手に一人上機嫌で喋り続けている。

「…で、そのじいさんに俺言った訳。 どれだけ貯め込んでも、お山までは持ってけないでしょうがってさ。 そしたらじいさんなんて答えたと思う?…って」 

相槌の代わりに盛大に溜息を吐き出した僕を見やり、トッズはやれやれと言わんばかりの顔で話を止める。 

「もう、俺の話ってそんなにつまらない? …まあいいけどね。 お仕事の話さえちゃんと聞いてて下されば別に。 …まーだ引きずってる訳ね、例の侍従さん」 

答える気になれずにそっぽを向く僕に、トッズはにやにやしながら尚も続ける。 

「普段の決断は早いのにねえ。 でもわかんないなあ、レハト様仮にも王様なんだから。 侍従の一人や二人、ささっと寝台に引っぱり込んで…って、わかった、わかったからそのおっかない顔でにらむのやめてってば。 怖くて縮み上がっちゃうって」 

にやついたままそう言うと、トッズは目の前の菓子に手を伸ばす。 
全く。 まともに相手にする方が間違っている。 とっくに分かっている事なのだが。 

「あれよね、レハト様が成人する前からの侍従さん。なんていったっけ…サニャちゃん?」 

そう。 サニャは僕にとってかけがえのない存在だ。 
一人きりで城に来て心細かった僕をどれだけ力付けてくれた事か。 笑顔は何にも代え難い癒しだし、一生懸命な姿はこちらまで元気にしてくれる。 
そもそも、サニャが側で支えてくれなければこうして王になるなんてとても…

「あーうん、わかった。知ってる。 多分俺もう覚えちゃってるわ。 だから二人の美しい愛と絆の物語はまた今度にしよう、ね?」

降参するように両手を挙げてトッズは溢れ出す僕の言葉を遮る。 自分で聞いておいて相変わらず失礼な男だ。

「まあ、噂の的だよね。 …ひそかなって意味だけど、もちろん。 決して侍従として有能じゃないらしいのに新王レハト様が手元から離そうとしないお気に入り。 庶民の出が懐かしいとか珍しいとか、子供時代から仕えてるからとか表向きその辺の理由を上げるのは多いけど、本気でそう思ってる奴なんていやしない。 互いの性別見ればわかる、本当の訳は別にある…ってね」

トッズの話は以前にも聞いたものだった。 僕が未だに王配を決めていない以上、容易に想像できた事でもある。

「新王陛下が何時になっても相応しいお相手を選ばないのは悪い女にたらし込まれてるから……いやいや、流石にそこまでおおっぴらに言いはしないけどね。 陛下やひいては国の為にならぬ事が起きているなら看過し難いだの、何とかおいたわしい陛下のお力になりたいだの、ほら、そんな感じで」

お偉い方々は親切面してそういうこと堂々と言ってのけるから怖いやね、差し出した僕のカップにもお茶を注ぎ足しながら世間話の様な呑気な口調でトッズは付け加える。

「お求めに従って俺も一応火消しに努めてはみたんだけどさ、ご想像通り広めたい方の声が大きくってどうにも限界があるんだわ。 ……貴族共は大分焦れてる。 そろそろ潮時だよレハト様。 いや、余計な事言ったか。 その辺わからないお前さんじゃないよな」

そう、わかっていた。 
引き伸ばしてみた所で誰の為にもならない。 
貴族の中の貴族、ランテの出であるリリアノの様に自分の希望通りに行く筈も無く、むしろ婚姻で得られる結びつきは僕自身が必要とする物でもある。
全て理解した上で何故先送りにしていたかといえば…。 浮かんだサニャの笑顔が僕の胸を締め付ける。 

「貴族様ってのは目聡いのか馬鹿なのかわかんないよね。 王様はどうやら素朴な女性がお好みらしいって評判だもんで、わざわざお屋敷の庭潰して畑作ったり、作業着風の衣装特注で作らせたりさ。 …ありゃ泥汚れ風の化粧始める奴が出るのも時間の問題だなあ。 どう?いっそこっちから仕掛けてみちゃう? 今年の流行、王様も大好き農婦スタイル!とかさ」

答えが無いのをトッズも気にしてはいない様だった。 思いに沈む僕を見て口を閉じるとカップを一息で空け、何に使うつもりなのか鞄から取り出した古びた香炉を一心に磨き始める。

……サニャがいてくれたから僕はやってこれた。 
不自由せず悪目立ちもしない程度の身分に落ち着ければそれでいい、そう思っていた僕が王を目指す様になったのもきっと、一つには彼女の存在があったからだ。 
自分の立場が弱いせいで馬鹿にされるサニャを見るのは耐え難かった。 もっと強くなって守りたい、誇りにしてもらえるようになりたい、思いが通じた後は一層その気持ちが強くなっていた。

城の外の情報を求めて訪れていた市で親しくなったトッズに裏の顔と目的があると知ったのもこの頃だ。
彼の持ちかける取引は僕にとっても願っても無い物だった。 


時折、考える。 あの時もしサニャに改めて気持ちを告げていたら、結果は変わっていただろうか。 
僕が王どころか、立場も性別も定まらない子供で、退位が決まってはいても衰えない威光を背負ったリリアノの後見があった、あの成人の儀の前の最後の一日に。

実際に僕が訪れたのはこの男の…トッズの元だった。 大人になった後を考えれば、彼の力がこの先どうしても必要になる。 印一つで貴族と渡り合って行けるとは思えなかった。 
後ろ盾も無い以上、使えるカードはどんな手だろうと多いに越した事は無い。

それがきっと二人を守る事にもなる。 
…あの頃の僕はやはり子供だった。 無邪気にも本気でそう思っていた。
多少の身分の差など問題じゃない、気持ちが通じ合っているのだから側にいれば大丈夫だと。


王になってからそれまでとは比べ物にならない位僕に付く者は増え、人に取り囲まれ目まぐるしく過ぎる毎日の中で二人でゆっくり過ごす時間などそうそうある筈も無く。 
王付きになって質、量共に桁違いになった侍従の仕事は傍目から見てもサニャには荷が重い様だった。 かといって特別扱いをすれば使用人達の間で彼女の立場がどうなるか想像に難くない。 
どこから嗅ぎつけたものか既に噂が立っている以上余り目立つ真似も出来ず、気付けば他の侍従以上に言葉を交わす機会は減っていた。
ようやく顔を合わせ、今までの様に笑ってくれてもそこにどこか無理があるのを感じずにはおれなかった。

侍従長にそれとなく尋ねてサニャが辞意を洩らしている事も知っていた。 同時に自分から辞めようとは思っていない、僕が必要とする限りはお仕えしたいと言ってくれている事も。


僕の気持ちは今も変わっていない。 サニャもそうだと信じている。 
…けれどトッズの言う通り、潮時だった。 子供の頃の告白と僕の我侭だけでこれ以上サニャを縛りつける訳にはいかない。 
王である事を一番にしてしまった僕は、彼女を幸せには出来ない。


「…どうかな。そろそろ腹も決まったんじゃない? 俺は別に茶飲み話してても構わないけどレハトは忙しいだろ。 何か俺にさせたい事があるからこうして呼んでくれたんだと思うんだけど」

声を掛けられて我に返る。 磨き終わった香炉を元通りしまい込んだトッズがこちらを見ていた。 これからを思うと気持ちがどうしようもなく沈む。 
けれどもう、決めた事だ。 用件を話し出すとトッズは片眉を上げ、小さく首を傾げる。

「ふーん。そりゃやれっていうならやるけどさ。 村に帰るサニャちゃんを無事に送り届ける、ね。 偶然同じ方行く振りして見守ればいいのかな」

現状特に差し迫った危険があるとは思っていない。 しかしトッズの話からもサニャが余計な注目を集めてしまっているのはわかる。 仮にもしサニャを手に入れて利用しようと考える輩がいたら。 もしそれが僕に敵対する者だったら。

……僕にはその時、王として振舞う道しか残されていない。 
私事を些事として切り捨てる、厳格な王として。

だからこれは王の命令じゃない。 個人的で勝手な、友人への僕からの頼み事だ。

「…ま、正しい選択だと思うよ、お前さんにとっても、相手にとってもさ」

立ち上がったトッズが手を伸ばして慰める様に僕の肩をぽんぽんと叩く。

一般的な意味でトッズを信頼しているかといえば多分違う。 
友情といわれて普通想像するものと、僕と彼の間にあるものは遠くかけ離れている。 
噂の出所について僕はトッズの可能性を排除してはいないし、彼もそんな事は承知の上だろう。

それでも、ある意味僕が彼以上に信を置いている者はいない。 子供の頃のように自らを僕と呼び、軽口を叩ける相手も、今やトッズと、サニャだけだ。 だからこそこの件だけは、どうしても彼に頼みたかった。


「了解了解。 まあ焦らしに焦らした分餌に食いつき易くなってるかもしれないし、障害だと思ってたものが無くなって浮き足立つ奴も出てくるだろうから。 陛下には自分を高く売りつける絶好の機会でもあるよね」

言いながらトッズは皿に残った菓子を幾つか懐にしまい込んでいる。

「賄賂だと構えたり怖気づいちゃう相手にはこっちの方が効いたりするんだよね。 高級品だけあってあんまり日持ちしないから使い道は限られるけどさ。 …じゃ、俺そろそろ行くわ。 具体的な日取りが決まったら連絡してよ。 あ、でも」

一旦言葉を切ると、わざとらしい真顔を作ってこちらを向く。

「寂しくなったらいつでもこの頼れるお兄さんを呼んでくれて構わないよ。 胸くらい貸してあげるから。 泣いてもいいよ?」

投げつけた焼き菓子を笑いながら空中で受け止め、トッズは姿を消し僕は一人になる。

静かになった部屋の中、冷めてしまったお茶を口にしながら暫し思いを巡らせる。 初めてサニャに会った時の彼女の緊張した顔、交わした会話の数々、したいと思い続けて遂に出来ずに終わる将来の約束の事。



小部屋の入り口から私を呼ぶ畏まった声がした。 
束の間の休憩は終わり。 王として執務に戻る時間だ。
扉の前で一度振り返り、小さく溜息をつく。 そして私は子供時代に背を向けた。
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