FC2ブログ
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
トッズ愛情Aエンド後。


レハトにセリフあり。わりと活発に喋ってます。





香りは人の記憶と密接に結びついて昔の事を思い出させたり忘れられなくしたりする、って読んだばかりの本の話をレハトがしてくれたのは俺がまだまだお仕事熱心な密偵だった頃の話で。

立ち寄った町で開かれてるっていう市を二人で冷やかしに行く途中不意にそんな事が頭に浮かんできたのは、それこそ一足先に辺りに漂い出した色々なものが混ざり合った市特有の匂いのせいだったりするんだろうか。 

その時は「わー俺もレハトちゃんと密接に結びついちゃいたいなー。 それで忘れられない男になっちゃおっかなー」なんて適当に合わせてそれっきり、別に改めて思い返しもしなかった。

忘れてたのはともかく、どうせなら来たばっかりで城にまだ慣れてない、洗練される前のレハトの可愛さをもっとしっかり味わっておけば良かった、とか今になって思うのはまあ、後知恵ってもんだろうけど。 

「ねえトッズ、結構大きそうな市だよ!」

少し先の曲がり角を覗き込んでいたレハトが駆け戻ってきてはしゃいだ声で報告してくるから、つられてつい俺も笑顔になってしまう。
……もし当時誰かにお前将来こんな事になるからって言われてたら鼻で笑ってただろうな。
爆笑してたかもしれない。

「早く早く」

笑った時の可愛さはそのままだけど今や子供の頃を重ねるのが難しいくらい、背もそのほか色々も成長して大人の姿になったレハトを思わず見つめてるとじれったそうに腕を引かれる。

「あー、うん。 いやね、市に行くのはいいんだけどね、レハト可愛いから旦那さんとしては色々心配になっちゃう訳。 いっつも言ってるけど変な人に付いてかないでよね。 怪しい隅っこの方とかに行くのも禁止。それから後は…」

あれこれ並べてたら不満そうな顔をされた。 いつまでも子供扱いしてると思ってるらしい。
むしろ子供じゃないからこうやって気を揉んでるんだけど。


「すごいよ見て! お店が沢山!」 

道を曲がるなりとりどりの色や賑やかな音、人の活気に溢れてて、レハトは楽しそうな声を上げてきょろきょろしている。 

ただ俺からすると正直、規模も品揃えも並みのどこにでもある市だ。 
でもおかげでこんな笑顔が見られるんだから勿論何の文句もない。
うん、いい市だ。

「ね、今度こそいいのあるかな」 

目をきらきらさせて気もそぞろなレハトの手を取って、これ見よがしにつないで歩く。 ていうか、見せつける、周りの男共に。 俺の奥さんはその辺どうにもわかってないから、こうやって適度に牽制しておかないと。 

「うーん、だといいけどね。 でもほら、大事なのは気持ちだし。 俺はこだわりないから別に何でもいいよ?」

そう言うとレハトは機嫌を損ねてむくれ顔になる。 うん、そういうとこもまた可愛いけど。 
そりゃ互いに交換する為の装身具探しだから大事だとは思うし、できれば希望通りにもしたいんだけど。


こうしてられるのは本当は奇跡だ。 
ありとあらゆる有り得ない事が起きて今二人一緒にいられてるんだって、レハトはどうかわからないけど、いつも俺の頭の中にはそれがある。 

だから正直言ってこれ以上何かを望むのが怖い。 俺みたいな人間が手にしていい筈がない幸せだって、俺が自分で一番良くわかってる。 欲張り過ぎると罰か何か当たって全部取り上げられるんじゃないか、そんなつまらない教訓話みたいな事をつい考えてるのは多分そのせいなんだろう。

「…うん、別に怒ってないよ。 でもせっかく今まで粘ったんだしやっぱり納得いくの探そう? ね、今度はあっち行ってみようよ」

気付かない内に力の籠もっていた俺の手を握り返して、もう機嫌を直したらしいレハトが笑顔でひときわ賑わう一角を指差す。

……なにも万人に祝福されながらディットンの神殿で結婚したいとか思ってる訳じゃないってのに。 
頭の冷静な部分ではちゃんとわかってるのにこの事になるとどうもついつい考え過ぎになる。



香りと記憶、か。 
確かに並んだ店の雑多な品々から立ち昇る匂いを嗅いでるとそんな気もしてくる。 …わざわざ実際に照らし合わせて確かめてみようとか、そんなつもりは全く無いけど。 

あの屋台からする香りは初めて毒を混ぜ込んだ料理とそっくりとか、そっちから漂ってくる甘くけだるい香りはあの時殺した女がいつも身にまとってた香とか、掘り返すまでも無く俺の記憶なんて多分大方がそんな感じだ。 

「ほらレハト、あそこで揚げ菓子売ってる。 好きだって前言ってたよね」 

別に今更その事を不幸だと言うつもりはない。 
過去は変えられないし、そんな俺じゃなきゃ今のこの瞬間もなかった。 だからこれでいい、そう思ってるけど。

「うん。 そうだ揚げ菓子って言えば、小さい頃近所に住んでたおばさんがね…」


レハトがこうして話してくれる思い出の数々は、俺にとってはその真っ当さがまぶしいくらいに思える反面 信じられない程単純で、平和で、退屈で。 
俺の子供時代がロクでも無かったのは確かだけど、そんな暮らしの中に放り込まれたら逆に一日と耐えられそうにない。

改めて住む世界が違うんだって思わされる。 こうして一緒に出店を回っていてもレハトが眺めているのは店先に並んだ商品、俺がさりげなく確かめるのはその後ろ、商人や商人らしく振舞ってる奴らの目の動きと天幕の影。
この先もきっと、同じ場所に立って違う物を見て、似てる様で違う記憶を重ねて俺達は生きていくんだろう。

と、考えに耽ってた俺の鼻先に不意に何かが突き出された。 咄嗟に飛び退りそうになって何とか踏み止まると、揚げ菓子の半分を差し出してレハトがにこにこしている。
 
「はい。 トッズの分だよ」

「…あー。 うん。 …でもレハト好きでしょ? 俺はいいから」

断ろうとした俺の手に菓子の包みが押し付けられる。

「だめ。一緒に食べるの」

真面目な顔でやけにきっぱりと言われる。 

「一緒のことしよう。 あの時私がお菓子食べてたね、じゃなくて二人で一緒に食べたよねって。 今も、後で思い出した時も、その方がずっといいよ」

……何も知らないレハトは時々こんな風に俺の心を見通すような目をして、俺を包む様な顔をして笑う。 


そうして二人、手をつないで同じ菓子を食べながら市をぶらつく。 城暮らしで目の肥えたレハトの審美眼に適う様な装身具なんて見つかりそうも無い平凡な市。 揚げ菓子もどこにでもある、いたって普通の味。

「……」

常に追われる立場で流石に平和って訳には行かないけど。 それでもこうしてるとまるで周りにいるのと変わらない普通の夫婦とか恋人同士みたいだ。

もしかしたらいつか、振り返ってみた時に自分の頭の中がこんなありふれた記憶ばかりで占められてる事に仰天する日が来るのかもしれない。 
あの香りは安宿に泊まった時に食べたあの料理とか、そっちの香りはふっかけて来た店の親父とやりあった挙句結局買わずじまいだった香とか。 単純で退屈な、どこにでもあるような記憶に。
二人で同じ物を見て同じ物を食べて笑いあってるうちに、いつか。

「…思ってたより悪くは無い、かな」

最後の一口を口に入れながら呟くと、レハトは顔を輝かせて俺を見上げてくる。

「本当?じゃもう一袋、買う?」

「いや、だいじょぶ」

思わず苦笑いした俺にレハトはきょとんとしている。

「徐々に、ね。一度に一つずつで俺には充分」
 
スポンサーサイト

コメント - 0

新着記事一覧
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。