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ヴァイル憎悪B+トッズ愛情エンドの前夜的でやや不穏な話。 片足突っ込みかけてる?

レハトさん城大嫌い。 セリフの様な物あり。

展開は最高だけどあのルートのレハトは結構なひどいことをしてるといつも思う。






午後もいくらか過ぎた頃、正面に現れた小柄な人影をトッズは市の天幕の下からじっと観察する。 
俯いて歩くその足取りは重く、離れたここからでも悄然とした様子なのがわかる。 
ぶつかりそうになった何人かに非難がましい視線を向けられているのにも気付かずに、不意に立ち止まり深く溜息をついたところまでを見て取りトッズは手元に目を戻した。 商品を適当に並べ替えていると、やがて元気のない足音がして店先に影が落ちる。

「よ。いらっしゃい、レハト。 …。 あー、何かあった? そういう時はさ、無理に笑ったりしなくていいから。 城の中じゃそうしてないといけない事ばっかりでしょ? 今くらいは肩の力抜いてなよ。ね? 」 

強張った笑みを浮かべ何か言いかけていたレハトはその言葉に目を見開いて動きを止め、ややあってから小さく頷くと隣に座り込む。

「うん。 …んじゃせっかく来てくれたんだし、ここはひとつとっておきの話しちゃおっかな。 えーっとあれはいつ頃だっけかな、前に俺が西の方の町に暫く滞在してた時のことなんだけど…」

手にした品物を拭いたり陽にかざしたりしながら、膝を抱え黙ったままの子供にというよりは独り言に近い調子でトッズは話し始める。 滔々と調子良く語られていた話が半ばで不意に途切れたのは、顔を伏せたレハトの口からしゃくりあげる声が聞こえてきたからだった。

「…レハト、店の奥空いてる。 ほら、これ持って」

人の目から遮る様に身を乗り出して手巾を握らせ、背中をそっと押して促す。 言われるままに天幕の影に身を隠すのを見届けるとトッズは座り直し、髪を二、三度掻いて辺りをそれとなく見回した。
良い天気に誘われたのか今日も市は賑わっていて、喧騒や音楽に紛れ子供の押し殺した啜り泣きに気付いた者はいなそうだ。 

中央に陣取った芸人の演目が終わり、さかんに拍手をもらっている。場が収まり、新しい曲が始まって暫くたった頃後ろでごそごそと音がしてレハトは戻ってきた。 目と鼻の頭を赤くしたまま小さな声でありがとう、と呟くと再び元の位置に腰を下ろす。

「…。 あのさ、レハト。 俺に話してみない? 」

二人の間に落ちた微妙な沈黙を破りトッズは口を開く。

「あー、もちろん俺の立場じゃ城とか貴族とかの事だと直接力になれるのも限られてきちゃうけどさ、だからこそ見えるものってあると思うんだよね。 それにほら、人に話すとそれだけで楽になったり頭がすっきりして考えがまとまったりってあるでしょ? これでもそれなりに人生経験あるつもりだし、何かレハトが自分じゃ気付かない事言ってあげられるかもしれないから。 ね?だまされたと思って、さ」

そのいたわる表情と気遣わしげな口調に、見上げてくる目に一度は止まった涙がじわりと溢れ出す。 気付けば伸ばしていたトッズの手に頭を撫でられ小さく身を震わせていたレハトは何度か口ごもった後ヴァイルが、と絞り出す様に口にする。

「ああ、うん、もう一人の候補者の。 最近仲良しよね。 一緒にいるの、よく見かけるよ。 …何か言われた? 」

わからない。 急に変わってしまって、でもそれまでは普通だったのに。
涙混じりにこぼれ出す切れ切れの言葉をトッズは頭に手を置いたまま、問い返す事無くただ黙って聞く。

やがて一つ息をつき、ぐいと目元を拭うとレハトは気を取り直した様に幾らかしっかりした声で話し始めた。
ヴァイルに告白して、振られてしまった。
ただ断られるだけなら覚悟してなかった訳じゃないけど。

「…そうじゃなかった? 」

少しの躊躇いの後、頷く。 いきなり表情が変わって大嫌いだ、消えてしまえと怒鳴られた。 何かしてしまったのかもしれない。 けれど突然過ぎて原因がわからない。

「あー…それは辛かったよね。 でも俺の目から見ても二人はいい雰囲気だったし、何かきっかけになる事がやっぱりあったんじゃないのかな。 ちょっと考えてみて…っと、いらっしゃいませ、どうぞどうぞごゆっくりー。 いや、お客さんお若いのに目が高い、何を隠そう実は今お手に取られたその指輪…」

その時店の前に立ち止まった男から声が掛かり、一旦言葉を切ってそちらに向き直り、一歩前に出て売り口上を並べ立て始めたトッズの影に隠れる様にして、レハトはじっと自分のつま先を見つめている。

「はいどうもありがと、また来てねー。 …いやあ、あの若さで随分と渋い物欲しがるなあ。 ま、あのお兄さんが自分で身につけるには装飾が重過ぎるし、年か立場が違う誰かにちょっとした贈り物ってとこかね。 ……で、どうかな。 何か関係ありそうな事、思い出した? 」

湖に一緒に出た事くらいしか思いつかないと返事が返ってくる。 
船の上で村や海、湖の先に広がる城の外の世界の話をして。 それから城にずっといるかと聞かれた。  

……いたくない。 ここにいると本当に息が詰まる。 
眉間に皺を寄せレハトは呟く。 

突然一方的な話で連れて来られた上偉そうに見下されるのに我慢できずに、ついその場の勢いで王になるなんて宣言してしまった。 その手前努力も大分してきたつもりだけど、暮らす内に馴染むどころか嫌悪感ばかりが募ってくる。
ヴァイルやトッズみたいに普通に接してくれる人がいたからどうにか我慢してこられただけ、本当なら今すぐにでも出て行きたい。

だから城にずっと、その言葉を聞いた時ここにこのまま閉じ込められる様な気がして、思わず身がすくんでしまって答えられなかった。 
その時もヴァイルは思うままにすればいいと言ってくれて、理解してくれてると思って嬉しかったのに。
 
深い溜息と共に話が終えられ、トッズは首を傾げて小さく唸る。

「…うーん。 それが関係してるかはわかんないけど、なんだかひどく誤解されちゃったぽいね。 その後話してみた? 」

問い掛けにレハトはもう何をどう話せばいいのかわからない、と力なく首を振る。

「うん、まあそりゃ、ね。 でもほら、相手は立場的にしょっちゅう求婚されてたりする訳でしょ。 もしかしたらレハトのせいとかじゃなくて、そういう話自体に人一倍警戒心が強いのかもよ。 だからさ、最初はそりゃ気まずいだろうけどちゃんと真剣なんだってわかってもらわなきゃ。 一回じゃ無理かもしれないけどさ、あきらめないでとにかく話してみないと」 

そうかな、不安気な子供の背中を励ます様に叩いてトッズは笑ってみせる。

「信頼があればわかってくれるもんだよ。 多少拗れても意外と元に戻ってかえって絆が深まったりとかね。 レハトと同じくらいレハトの事考えてる相手だったらさ、これだけの気持ちが伝わらない筈無いって。 ね、自信持って」  

……わかった、頑張って話してみる。 
ようやく明るい表情になってレハトは頷き、ありがとう。 トッズがいてくれて良かった。 と言葉を続ける。 

「あはは。 普通だったら相談料弾んでもらっちゃうとこだけど、他ならぬレハトの為だもんね。 ……お前がそんな風に泣くの、俺も辛いからさ。 俺の事、いつでも頼ってよ。 なんだってするよ。 俺はレハトの力になりたくって、その為だけにここにいるんだからさ」

ありがとう、もう一度口にしたレハトの頬がやや赤らんでいる。 それを誤魔化す様に勢いよく立ち上がると彼は別れの挨拶らしき言葉を口の中で呟き、トッズが声を掛ける前に店の外へと走り出して行った。



△▽△▽



来た時が嘘のような、元気一杯の足取りで駆けるレハトが途中で振り返らない事を願いながら、俺は小さくなる後姿を目で追う。
話している間浮かべてた笑みはそのまま口元に残しているし、そもそも腹の中の思いを表に出す様な間抜けな真似をするつもりは無いけれど。
それでも今この時ばかりは、湧き上がる歪んだ満足感が余りに強くて、表情のどこかに漏れ出してやしないかと心配になってくる。


レハトは気付いて無い。 気付く筈も無い。 
俺が親切面してせっせと耳に注ぎ込んでた言葉が全て、甘い衣でくるんだ毒だって事に。

ごめんねレハト、もう一人の寵愛者様は多分お前の言葉に耳を貸してなんてくれないよ。 
あれはもう言葉でどうにかできる段階なんてとっくに通り越してる。 修復なんて出来ないし、しようとすれば逆にどんどん悪化するだけだ。

……そうでないと、俺が困っちゃうんだよね。


レハトが俺に対する気持ちをいまいち自覚できてないのは知っていた。 俺の言葉に返ってくる反応は悪くない割りに、一向にこっちが期待してる行動には出てくれなくて、結局は落ち込んでる時を狙って息抜きのお誘いを持ちかけて外に連れ出したくらいだ。
どうやらレハトの中じゃお兄さん的存在とか何か、そんな感じになってるんだろうと想像はついたけど。

今まではそれでも別に良かった。 いずれ気付かせる自信はあったし、例えそうならなくても、レハトの目を覗き込めば俺が他の奴とは違う、特別な位置にいるんだってちゃんと確認できていたから。 
でもいつの間にかあのもう一人と単に友達ってだけじゃない雰囲気になっていて。 そう気付いた時には完全に手遅れだった。

はなっから勝負にすらなってない。 片や元密偵しかも裏切り者、片や一人にしか現れない筈の印まで分かち合った次の王様候補。 あっという間に開いていく距離にいっそ笑ってしまいそうになる。 
そりゃそうだ。 似た境遇で同じ年、同じ印。 お似合いってああいう二人の為にある言葉だ。 

だから端から見たら、よじれ捩じれていく俺の心だけがきっとおかしいんだ。


レハトしか望まないのに。 これまでもこの先も何も望まなかったし望まない、レハト只一人なのに。 
王様の甥で大貴族の生まれで寵愛者様で、あんたは欲しい物はなんだって手に入るんだろうに、なのにどうして俺のたった一つなんだ。

次に二人が仲良くしている所を見たら多分これ以上押さえておけなくなる。 間違い無く何か余計な事を言ってしまう。
そう思ってた矢先、ほんの何日か前の事だ。 もう一人の寵愛者がレハトを見つめる場面に出くわして、何かが起きたんだってすぐにわかった。 
あんなに仲睦まじかったっていうのにただ押し黙って近寄りもせずに、気付かず通り過ぎていくレハトをじっと見る目の色が今までとは完全に変わっていた。 その様子にこっちの背筋がざわついて仕方がなかった。

別にその目に浮かぶやけに鋭くて妙に熱っぽい光が怖かったとかそういう訳じゃない。 あいつの気持ちが手に取る様に理解できたからだ。
俺だ、と思った。 少し前までの、そのままならきっとなっていた俺。

手に入らないなら、青白い頬にそう書いてあるみたいだった。 手に入らないなら、いっそ。

あの寵愛者様の実際の腹の中まではわからない。 只どうするつもりにせよ、まずレハトにはいい結果にはならないだろうし、おそらく辛い思いをする事になる。 
そうと知っていて、俺はもうその場で声を立てて笑い出したいくらい嬉しくて仕方が無かった。

ああ、わかってる。 どこまで行っても所詮俺はそういう人間だ。 
レハトが傷つく事以上に、そのレハトにもう一度手が届くかもしれないという目の前の降って湧いた幸運ばかりが気になって、それを掴む為だったらどんな手段でも使おうと決心してる、欲にまみれたどうしようもない人間、それが俺だ。


慰める手が優しく暖かく感じられるのは負った傷が痛むからだ。 
だったらあの寵愛者様にしかできない事が一つだけある。 あの底冷えするみたいな目で、できる限りレハトを打ちのめしてくれる様な態度を取ってくれたらいい。 
いつも一番レハトのことを考えてて、一番レハトを支えてあげられるのが誰か、レハトがちゃんと気付ける様に。


卑怯だ、と人によっちゃ言うんだろう。 弱ったところに付け込んでる、信頼を食い物にしてると。

欲しくて欲しくてどうかなりそうな俺のレハトを、あの王様候補はもういらないんだと仰る。

……だったら俺がありがたくもらって何が悪い?


ねえ、レハト。 どうかこのまま俺の所まで落ちてきて。 
落ちる時にどれだけ傷を負っても大丈夫、痛みなんか感じなくなるまで全部俺が癒してあげる。 流した涙の何倍も笑顔でいられる様、俺の全てでお前を幸せにすると誓うから。
だから、どうか。

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