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10月2日はトッズの日。 でも10月23日も トッズさん、でやっぱりトッズの日。


て訳で勝手にWトッズの日記念で二つ、二次創作文的なものを。

一方がよりにもよって殺害ED後の話なのは只の気の迷い…。


トッズ護衛中の話。 レハトにセリフがあります。


さっきから、レハトはなにをしているんだろう。

幾らか離れた木立の影から見守りながら、トッズは一人首をひねる。 

ここ数日続いた雨もようやく上がり中日の今日、アネキウスの気分が変わらないうちにと山と積まれた洗濯物を抱えた者や侍従、訓練場へ急ぐ衛士達が慌ただしく行き交い城内にも何となく活気が満ちている。
 
そんな中自室を勢い良く飛び出して行ったレハトの姿に、トッズも元気だねぇと目を細めて後を追ったのだが。 


中庭の奥へとどんどん進んで行ったレハトは木々に囲まれた様な空き地に出ると不意に足を止め、腰を下ろしたきり動こうとしない。 
どこかぼんやりした表情で辺りを見回したり天を仰いで見たりする仕草に昼寝でもしにきたのかなと納得しかけたトッズの予想に反し、屈み込むとそのまま足元に手を忙しく走らせ、止める様子が無かった。

距離があってここからでは何をしているかまでは見て取れないが、既にレハトは読み書きに不自由も無い筈、今更書き取りの練習でも無いだろう。

ぐるりと辺りを見回し、人の気配が無いことを確認する。
幸い忌々しい爺様のこれ見よがしの殺気も無い。 今なら側まで近づいても大丈夫そうだ。



「レーハート。 何してるの?」 

気配を殺し後ろから声をかけた途端、小さく悲鳴を上げ飛び上がったレハトは慌てて振り返る。 うろたえた顔がトッズの姿を認めるなりほっとしたように和らいだ。
 
他の人かと思った、良かった。 
そんな言葉に思わず頬を緩めたトッズを見て自分も微笑むと、後ろに下がって何をしていたか見せてくれる。

「…えーっと」

縦横共に精々が大人の二、三歩分程度、その場所だけが黒々とした地面を覗かせている。 
小指の先程の石も芽吹いたばかりの小さな緑も全て取り除かれ傍らに寄せられていた。 

「あー、わかった。 これあれでしょ、畑」 

はんぶん当たり、答えてレハトは小さく笑う。 

「半分? …んー…。 あ、そっか、土を起こさないと畑にならないんだっけ。 肥料なんかもいるよね」 

それには返事をしないままレハトは再び腰を下ろす。 同じように隣に座ったトッズの視線を避けるように正面を向いたまま、ややあってから子供はぽつぽつと話し始める。
 
畑ならそうだけど。 ここは畑じゃない。 だから違うと。 

「…せっかくこんなにキレイにしたのに? …レハト前にこんなに土地があるなら何か植えればいいのにって言ってたでしょ?」

土にまみれている姿を見られでもしたら、貴族達になんと言われるか。 せっかくそれなりには溶け込めつつあるのに。 上っ面から透けるのを隠そうともしない軽侮の表情を少なくとも正面からは受けなくても良くなったのに。

堪えかねた様に言葉を吐き出した後、丸めた背中が随分小さく見えた。 
黙って頭にそっと手を置くとレハトははっとしたように身を起こし、慌てた声で付け加えだす。

恵まれた境遇なのはわかっている。 元いた村にいる限り決して得られない機会を与えられている事も。

矢継ぎ早に優等生的な言葉を紡ぎだす唇に更に形だけは完璧な、気持ちの篭らない笑みが浮かんできたのを見てトッズは溜息を一つつくと、乗せたままの手でくしゃくしゃになるまで髪をかき混ぜてレハトのそれ以上の言葉を封じる。

「だめだめ。このトッズさんにその手は通用しないのよ? …せめて俺といる時位ムリするなって。 レハトの本当の笑顔はもっとうんと可愛いってトッズさんよーく知ってるから、そんな笑い方じゃ誤魔化されないよ? なーんて。 あああ、笑った?笑ってるの? ひっどいなあ。ほんと、本当に本当よ?」

大仰に顔をしかめた後、殊更におどけた口調で軽口を叩いてみせると、目を丸くしていたレハトの体から力が抜けるのが腕越しに伝わってくる。 
次いで顔一杯に広がった笑みは、先程とは違う飾らない子供のもの。 

「うんうん。 やっぱりそうやって笑うレハトはほんと可愛いなあ。 でもその頭のまんまじゃそれこそ貴族の奴らに何か言われちゃいそうね。 …でも御安心、そんな貴方の為のとっておきのこの一品! なんと建国王ルラント出陣の正にその夜、彼に思いを寄せるある麗しい令息が神の啓示を受けた際に髪に挿していた由緒ある品だと主張する、子孫を自称する男からイカサマ賭博で巻き上げたって言う男の奥さんがある日道で拾った…ってほらほら、じっとしてくれないと梳かせませんって」

くすくす笑い、身をよじるレハトを膝の上に抱きかかえて乱れた髪に櫛を通す。 

顔を寄せた時、腕の中にすっぽりと納まってしまう小柄な体から立ち上った香の仄かな香りがトッズの鼻をくすぐった。 
今まではしたことのなかった、上品で洗練されて優雅な、そう、貴族の香りだ。
たったそれだけの変化に、普段奥に押し込めている筈の焦燥感が不意に沸きかえり、胸を噛む。


もう年明けは遠くない。 この時間は続かない。

ぎゅっとその胸に抱きつかれ、注意を引き戻される。 見ればいつの間にか笑うのをやめていたレハトが、腕の中からじっと見上げていた。

「…レハト?」

トッズの目に今の自分はどう映っているのか教えて欲しい、そう言う声と瞳の中に、隠しきれない不安が籠もっている。

「…レハトは何も変わってないよ。 いや、もちろん一層可愛くはなってるけどね? 城の中で上手くやれてると思うし、それは全部レハトの努力の成果だけど。 でももしつらいんだったら無理することなんて無いって」

その言葉に黙り込むとレハトは頭を肩にもたせかけてくる。 

暫くの後、時折怖くてたまらなくなる事がある、と心のうちを語りだした声は心なしか震えている様だった。

貴族になんてなりたくない。 できるものなら今すぐにでも帰りたい。

それでも、自分たちの手を土で汚す事も無く最も良いものを当然のように手に入れて、その仕事を行う者を田舎者と蔑む人達の一員にいずれなってしまうのだろうか。
 馴染めていると思う。 それだけに恐ろしい。


トッズ、どこにもいかないでね。 顔をトッズの服に埋めたままレハトは呟く。 
こうして一緒にいる間だけ、本当の自分でいられる気がする。 わがままなのはわかってるけれど、こうしてトッズと話せなくなったら。

城での毎日に呑まれて、きっと自分が誰なのかも思い出せなくなってしまう。


細い肩に手を回して抱き寄せながら、トッズはレハトが上を見ていないことを密かに感謝する。 今の自分はどれほど欲にまみれた顔をしていることだろう。  

今なら、レハトが望むのだからどうなろうともこのまま連れ出してしまえば。 
それが適わないのならいっそ、貴族の一員になる事をレハト自身が望んでいないのだから、もう、いっその事。 

ずるずると体のうちから這い出してくる欲望が囁きかける声は余りにも醜く黒く、それなのに甘い。
傷つける事など望む筈も無いのに、自分に預けられた体を抱いた手に勝手に力が篭りそうになって思わず唇を強く噛む。


「…!」

まるで狙い済ました様にその瞬間、凄まじい殺気が一直線に突き刺さってきた。 
胸元から慌ててレハトを引き剥がし、距離を取りながらトッズは少しだけほっとして息をつく。 

見てんなよじじい、それとは別に悪態をつくのは忘れない。
 
「ごめんごめん、誰か通った気がして。 でも気のせいだったみたいね、あはは」

驚いた表情だったレハトはその言葉に納得したらしく、周囲を見回している。 
…道を外れ、木々の奥へと分け入ったこの場所を訪れる者など実際はそうはいないだろうが。

「さてと、そろそろ部屋に戻る? もっとこうして話してたいけど、ぼちぼちおっかない爺様が迎えに来そうだしね」

そうだね、答えるレハトはつい先程までと違う、どこか吹っ切れた様な顔をしていた。 
決めた、元気な声を出すと差し伸べたトッズの手をぎゅっと握りしめて立ち上がり、続ける。

もし畑をするならこんな所に隠れる様に作ったりしない。 その時は堂々と城の真ん中に大きな畑を拓いて貴族という貴族がこぞって真似したがる流行の最先端にまできっと押し上げて見せると。

「…そりゃまた大きい夢だねー。 うん、でも貴族様なんて暇潰すために生きてる様な連中だしね。 目新しくて珍しいって思わせて、あと洒落た衣装でも用意してやりゃもって行き方次第で案外食いつかないとも限らないね」 


トッズがいてくれるなら。 はにかんだような表情で、しかし迷い無くレハトは言う。

トッズさえ一緒にいてくれるなら周りがどう見ようと気にしたりしない。 前の自分と少しくらい変わってもそれが本当の自分じゃないなんて不安になったりしない。 
何処にいようと、きっと自分の望む方へ進んでいける。

真っ直ぐに語る姿のまぶしさに、トッズの口元にほんの一瞬、本人すら気付かない短さで苦い笑みがかすかに浮かび、消える。

「…うん。 …そうね、じゃあもしレハトが畑をやるんなら俺は護衛兼お抱えの種と苗専門の商人さんになっちゃおっかな。 国中巡ってさ、見た事無いような凄い種とか片っ端から運んできて。 そのうち城が政じゃなくって畑仕事の中心地になるかもねー」

そんなのダメ、それじゃ一緒にいられない、唇を尖らせるレハトはそれでも楽しそうだ。

「じゃあ種屋さんも二人でやっちゃう? 一年の半分は旅する種屋さん、残りは畑で… ああ、いっその事
貴族に流行らせる服も扱っちゃおっか。 それだと人も沢山雇わないとねー」


帰る道々二人で語る将来の他愛ない夢はどんどんふくらんで、城どころか国一杯にまで広がって留まる所を知らない。


もし。ひょっとして。仮に、レハトが望んでくれたら、その時は。

レハトが笑顔になる度胸の中に沸き上がって来る自分の本当の願いに蓋をして、トッズは代わりに小さな手を強く握る。


いつかお前が望む通りの道を歩む日が来たら。

どうかその時もまだ、俺の姿がその目の中に映っていますように。 
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