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以前カビ祭様に提出したものをそのままにしていたのを思い出したのでUP。 
加筆修正などはしていません。
トッズ愛情ルート中。
ヴァイルイベント「舞踏会の合間に」中の出来事。


カビ祭→祭り→にぎやか→舞踏会 というひねりのない連想から浮かんだ話。
どうせだったら踊ればよかったんじゃないか、と今になってちょっと思ったり。






高い窓から不意に振ってきたわっという歓声に顔を振り向けて見上げ、トッズは舌打ちをする。 
くだらない。 こっちの子爵夫人のターンが見事だったとか、そっちの男爵令息が気の利いた返しをして見せたとか。 貴族様方の喜びそうな事といったらどうせそんなところだろう。 
ふんだんに着飾らないと誤魔化せない様な汚い心根の奴らがわざわざ一つ部屋に寄り集まって、誰が一番悪臭を放っているか嗅ぎ当てようというのだから全くご苦労な事だ。


「…」 

再び小さく舌打ち。 最も自分自身がそうした彼らからのおこぼれを頂戴して今まで生きてきた身、余り大きな事を言えた立場でもない。そうと知りつつ今日に限って苛立って仕方が無い原因はわかっている。 

今あの中にはレハトがいる。


今月からは御前試合にも舞踏会にも参加する。 この前の市に現れたレハトはまるで宣言するようにやけにきっぱりと言うと、見つめる自分の目を避けるように俯いて隣に腰を下ろした。
それでも、口調とは裏腹の不安気な瞳の色は見て取れた。 彼が貴族も貴族の社交の場も好いていないのはトッズもよく知っている。 頃合を見てそれとなく促すと、やがてぽつりぽつりと話しはじめた。

自分が王の庇護下にあり危険から守られている事、今の様にある程度静かに暮らせているのもそのおかげであると知った事、本当なら印を狙って貴族達が押し寄せて来ている筈だった事。

ぎゅっと手を拳に握り、前を見たままレハトは続ける。 口を挟まずにトッズも黙って耳を傾ける。

それも年が明けて代が替われば終わる。 王とランテの力に頼ったままでは成人した後きっと自分で自分の身も守れないだろう。

レハトの語る言葉がトッズには苦い。 皮肉にも自分の行動が彼に自覚させるきっかけになってしまった。 ただの子供でいられる訳も無い自身の立場を、貴族の目に獲物として映る中立ち回らねばならないという事を。

自分だけなら、不意に声に力が籠もり、自然 そちらに向いた視線が顔を上げたレハトのそれと合う。 自分だけならともかく、そのせいで周りの人まで巻き込まれたら。何よりトッズにもうあんな怪我をしたりして欲しくない、真っ直ぐに言われて言葉に詰まった。 
奴らに馴染む努力なんてする必要無い。 ずっと俺が守ってやるからそのままのレハトでいればいい。喉元まで出かかっている思いを口にする訳にはいかなかった。 

ねえ、気付いてる? 俺のためを思ってレハトが努力してくれればくれるほど二人の間の壁は高く、そりゃもう高くなっていくって事に。 

「…うん、そうね。 レハトの居心地が良くなる為でもあるし悪くないんじゃないかな。 俺は優秀な護衛だから心配御無用だけど、そんなに気遣ってくれて嬉しいなあ。 あ、でもムリだけはしたら駄目よ?」

本心とは違う台詞なら淀みなく幾らでも出てくる。 余りにも滑らかで、自分でも信じてしまえるんじゃないか、一瞬そんな事を考えてしまう程に。 
それを聞いて安心したように表情を緩ませるレハトににっこり笑いかける。 笑った顔と心の中の何かがこすれ、音を立て軋んだ。

…どうかしている。 全て初めからわかっていた筈だ。


音楽の洩れ聞こえてくる窓をもう一度見上げ、今度出てくるのは溜息。 貴族が待ち構える中一人飛び込んで今頃レハトはあの中でどうしてるだろう。 こみ上げてくる思いがちりちりと胸を焼く。 それが焦りなのか、怒りか不安か、トッズ自身にもわかりはしない。


振りかざされた刃からなら身を挺して庇う事も出来る。 悪意から自分を守る術を教える事も、害になるものを密かに取り除く事も。レハトと自分の為ならなんだってやれるだろう。 彼のいる世界で隣に立って共に歩く、只一つその事を除いて。 今もこうして薄闇の中、手が届かなくなっていくのを指をくわえて眺めているだけ。


「…あーあ、やだやだ辛気臭くって。 つまんないこと考えるよね、俺も」

一人呟くともたれていた木から離れ、髪を掻いて建物に背を向ける。 こんな所で貴族共の囀りに耳を傾けていても気が滅入る一方だ。 爺がレハトの側に貼りついて部屋を衛士が取り囲んでいる状況で、トッズに出来る事は無い。 今の内に二、三確認しておいた方がいい。
気がつけばいつも無意識のうちに“準備”の手順を頭がなぞっている。 大まかな全体像は既に描けている。 後は細部を詰めて、抱き込む人間に当たりをつけて…。

「…はは」

洩れ出た笑いの力無さに更に苦笑がこみ上げてくる。 全く、我ながらつくづくどうかしている。

きっと無駄に終わるだろう。 レハトが城に馴染む努力をするなら余計に。 
そもそも、自分がこの準備の事をレハトに切り出す日自体、トッズには来ない様な気がしている。
叶う筈が無い。 二人を隔てる距離は、余りにも、こんなにも遠い。





足を踏み出しかけた時、がさり、茂みをかき分け近づいてくる物音がしてトッズは眉をひそめ、そちらへ向き直る。 音を立てぬ努力をしてはいる様だが到底成功しているとは言い難く、位置もやけに低い。 気配は二つ。


「…不審人物はっけーん。 捕獲しましたー。」

「…!!」

後ろに回り込むと暗がりの中に一分の隙もなく着飾った子供が二人、忍び足で歩いている。 ある程度互いの距離が離れた所を見計らって見慣れた方を抱え込み、素早く引き寄せて悲鳴の上がりそうになった口をふさぐ。 耳元に囁きかけると誰かわかったのだろう、強張った体から力が抜けて小さな手がトッズの服をぎゅっと掴む。

びっくりした、攫われるかと思った。 つないだ手に促されるままついてきたレハトは、開けた場所で立ち止まると小声で文句を言ってくる。 その割に表情はやけに嬉しそうで、今のトッズの胸はそんな事でもちくりと痛む。

月明かりの下、きらびやかに飾った服の中で良く知った顔までがどこか別人の様だ。

「ごめんごめん、でも俺もびっくりよ、こんなとこで会うなんて。 上はもういいの?」

頭上から音楽に混ざって落ちてくる拍手やざわめきは舞踏会が今まさに最高潮の盛り上がりだと伝えてくる。 もう一人の王様候補と、外で何をしているのだろう。

努めて軽い調子で問い掛けるとレハトは痛い所を衝かれたという表情をしてわずかに目を逸らし、沢山挨拶はしたし、空気がちょっと、と要領を得ない事を色々言っていたがやがて観念したように探検に来た、と白状する。

「…探検?」

改めて見れば確かに、完璧かと思えた髪はあちこち乱れ、靴にも泥がこびりついている。 裾に付いているのは良く出来た妙な飾りではなく絡んだ小枝らしい。

「ああ、レハト夜の中庭なんて初めて見るよね。 で、どう?何か見つけた?」

頭にいくつも載った枯葉をつまんで取っていると 見つけた、返事と共にレハトが抱きついてきた。 襟飾りがつぶれるのもお構いなしに両手でしがみついてくすくす笑っている。

やっぱり会えた。 顔を埋めたまま小さい声がそう呟く。




「レハト?どこー?」

少し離れた場所でもう一人の候補者が探している。 今行く、身を離し同じ様に潜めた声で返事をするレハトの指に光る物を見つけ、トッズは思わずその手を取る。 小さな石のついたその指輪に見覚えがあった。

「…レハト、これって」

どうしてもお守りにつけていたかった、屈託の無い答えが返ってくる。 誰にも見せたくないから握り込んで袖で隠していた、何故か得意気なその表情には麗々しい衣装の方がむしろ不釣合いだ。


「レハトー?」

再び聞こえてきた呼ぶ声にまた今度の市で、と笑顔を残してレハトは駆け出して行き、トッズは再び一人になる。


「…」

振り返って高い窓を見る。 部屋に詰め込まれた貴族達の窮屈そうなざわめきが静まり、新しい曲が始まった。 緩やかなその旋律には聞き覚えがある。

「…いやいや、ちょっと、トッズさんってば」

知らぬ内に演奏に合わせてこぼれ出かけていた鼻歌を飲み込み、代わりに溜息をついて首を振る。 自分はいつからこんなに単純な人間になったのだろう。 周りに誰もいなくて良かった。 苦笑いのつもりで浮かべている表情も実際どうなっているかわかったものではない。

「トッズさんわかってる? 状況は別に何一つ変わってないんですけどねー?」

自分を戒める為に出した言葉と声までもが完全に浮ついている。

ああ、本当にどうかしている。




子供二人が立ち去るのと入れ替わる様に後ろから物音と話し声がし始める。 確かめるまでも無く衛士と侍従達だろう。 探検中の寵愛者様を探しているに違いない。 中の一つ、良く知る気配は勿論あの爺さんのものだ。 おそらく向こうも既にこちらに気付いているだろう。 いつまでもここでのんびりもしていられない。

「…ま、じゃあお仕事始めましょうかね。 レハトを守るのはあくまでこの俺!ってね」

上機嫌に呟くとトッズもきびすを返し茂みの中に消える。

誰もいなくなった場所に少しの間、遠ざかっていく鼻歌だけが残っていた。
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