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六月一日はかもかて公開四周年記念日! だったのでそれにちなんで四年後の話。

トッズ愛情Aエンド後、南に辿り着いてから。 レハト喋ります。





「あれ?レハト?」

家の角を曲がると現れる立ち並んだ丈の高い緑の間に、いると思っていた姿が無い。
辺りを見回しても目に入るのは青々とした葉の下から覗く重たげな丸く赤い実と、摘み取られて地面の上で干からびているしおれた花、それにちょっと離れたところに空のまま置かれた蔓で編まれた籠ばかり。 それらに囲まれて先に畑仕事を始めているはずのレハトはどこに行ったものか、姿が見えなかった。
 
行き交う虫の羽音以外何も聞こえてこない静けさの中で一人立ち尽くして、強い日差しに照りつけられて立ち昇る熱を帯びて湿った土の匂いを胸に吸い込んでいるうちに、今更ながらにここにいる自分がひどく場違いな気がしてきて何となく落ち着かなくなってくる。


物心つくかつかないかの頃からずっと人に囲まれた中でその悪意や思惑を利用し、呼吸し、泳ぎ渡る様にして生きてきた。 そういったものから離れた平和な田舎暮らしに漠然と憧れを抱いた時期も確かになくはなかったが、あくまで実現する訳が無いのを承知の上での事だ。 
それが実際に自分達以外誰もいない場所にこうして腰を落ち着けて、騙し、掠め取る代わりに育てたり作ったりしてこのままの日々が続くのを願いながらただ穏やかに暮らしているなんて。

……いつまでもそうしてられる訳が無い。 
心の隅で底意地の悪い、しかし妙に馴染みのあるいつか聞いた誰かの声が囁く。
 
所詮お前はそんな風にはできてやしない。 
ずっと続く平穏な毎日なんて単なる退屈と一体何が、どう違う? 

違う、反射的にそう思いはしたものの、一方で自分がその言葉を完全には否定しきれずにいるのにも気付かされて胸にじわりと苦いものが広がる。 

退屈。 今の生活をそんな風に考えた事はない。 現状追手が現れる可能性はそれ程高くないと踏んではいたが、それでも自分達が逃亡者で警戒を怠っていい立場ではないという事実も変わってはいない。 けれど…。

「……。 …レハト?」

しこりになって中々薄れていかないすっきりしない気持ちを振り払おうと殊更に大きな声を出して呼ぶと、ややあってからこっち、と少し遠くの方から声がした。 
ああ、そういえばここの土が丁度良さそうだとレハトが言うからこの間、ちょっと離れた村で頼んで分けてもらった新しい種を向こうにもまいてみたんだった。 
改めて思い返しながらきれいに列を作って植えられた野菜畑の畝の先、草を踏みつけて出来た細い道を奥へと進むとぽっかりと開けた場所で地面にかがんで一心に草を取っているレハトがいた。 こちらを見てぱっと顔を輝かせて駆け寄ってくると、手をしきりに引きながら傍らで顔を出している沢山の小さな芽を指し示して、子供みたいなはずんだ声で笑う。

「見て見て、もうあんなに芽が出てる。 やっぱりここ、土が良かったみたい。 これが上手くいったら今度はもう少し規模も広げて、そしたら続けて同じとこで植えなくてもいいようになるし、蓄えももっと……? どうかした?」

取り除いた雑草とそう違いもなさそうな緑の葉にいとおしそうな眼差しを向けて、にこにこして話し続けていたレハトはじっと見つめる俺の視線に気付いて首を傾げる。 それには答えずにつないだままの手に力を入れて引き寄せ、ぎゅっと抱きすくめて髪に顔を埋めた。 
細い、けど確かに腕の中で息づいている温かく柔らかな体。 側にいないと体の一部を失くした様で、こうして抱きしめていると今でも泣きたいくらいに嬉しくて、安心して、ただもう幸せで。 
暫くそのままでいると胸の底にわだかまっていた先程のもやもやした思いは嘘みたいにあっけなくどこかに消えていた。 

「え? あーうん、いやね、俺の世界はレハトを中心に出来てるんだってつくづく実感しちゃってさ。 えーふざけてないよ? 本当に本当、心から言ってるのになあ」

身を離すと物問いたげな表情と目が合う。 正直に答えると冗談だと思われたのだろう、呆れた顔が返ってきた。
俺がどれだけ本気で言っているか、わからなくていいけど伝わらないのがちょっとだけもどかしい。 改めて周りを見回してももう何の違和感も感じなかった。 

うん。 ここは古ぼけた廃屋から二人で手を加えて築いた、俺達の家。 レハトと、それから俺の為にある、俺の居場所。 レハトが一緒にいてくれさえすれば何の迷いもなくそう実感できる。

「もうここは終わり? そっか。 じゃあ次は向こうの畑ね。 あーなんかやる気出てきたなあ。 よーし今日も頑張ろうっと」

うん、頑張ろう。 頷いて微笑むレハトの手を握り直して歩き出す。 畑仕事の後は壁の補修と道具の手入れ、水ももう少し汲んでおこう。 レハトの笑顔と二人の暮らしを守る為にやるべき事は沢山ある。 仰いだ空は青く、どこまでも澄み渡っていて実にすがすがしかった。




早めに夕食を済ませた後は庭に椅子を出して、暗くなるまでの一時をゆっくり過ごすのがここ暫くの日課になっている。 俺の髪が随分伸びたというのでレハトは一緒にはさみも持ち出してきた。 もう風は昼間より大分涼しくなっていて、空の端の方には星が幾つか姿を見せ始めている。 

「…今日も、変わりなかった?」

束ねていた髪を解くと後ろに回ったレハトが手にした櫛で丹念に梳き始める。 そうしながら尋ねられて俺は頷き、大丈夫だよと付け加えた。 誰かが近づけばすぐにわかる様に家の周りには幾つか仕掛けをしてある。 念の為朝と夕にそれを見回る事にしているが幸いこれまでの所異変は何もなかった。

「良かった。 …ね、もう城から出て四年も経つね」

四年。 改めてそう聞けばそんなに経っているのか、というのとまだそれだけしかレハトといられていないのかという二つの驚きが胸をよぎる。 全く、どこまでも救い難い独占欲だ。

「そだね。 それにしても四年かあ。 ここに来るまでもいろんな事あったけど…そういや俺結構畑仕事上達したと思わない? 作物の出来の見極めとか鍬の使い方とかさ。 この調子でいけばすぐに一流の農夫になれると思うんだよね」

ぱちん、返事の代わりに髪を切るはさみの音が辺りに響く。 しばらくそのまま無言が続いて、ようやく俺はレハトが声を押し殺して笑っているのに気付く。

「ええ、笑うなんてひどい! 自分では意外とさまになってきたつもりだったのに。 あと何年かしたら人に教えて回れるんじゃないかって密かに自信持ってたのになあ」

大袈裟に憤慨してみせようとして結局こらえきれずレハトと一緒に吹き出してしまう。 その声に驚いたのか近くで鳥が抗議するように一声鳴いた。

「人前でそんな事言ったら肥料代わりに畑に鋤き込まれちゃうよ。 でも確かに凄く上達したよね。 前は平気そうにはしてたけど本当、慣れてなくて大変そうだったから」  

私も随分農作業から離れてたから次の日二人で起き上がれなくなっちゃった事もあったよね。
そう言ってくすくす思い出し笑いをするレハトは不意に手を止めると柔らかい表情で後から覗き込んでくる。 
「あのね、ここに来てから、前より楽しそうだよね。 顔が穏やかになった気がする」

「…そう? 昔っから人相の良さには定評があるんだけどな。 更に磨きがかかったって事かなあ」

俺の言葉にレハトは何か言いたそうに口を開きかけて、結局は黙って曖昧に頷く。 …まあ何を言おうとしたかわからなくは無いけど。 素直に顔に出ちゃうとこが可愛いから別にいいけど。

俺が以前より楽しそうに見えるというなら、それはきっとレハトが幸せそうだからだろう。 自分では正直特に変わった気はしない。 追われる立場なのは片時も忘れた事は無いし、今の暮らしは確かに決して悪いものではないけれど、あくまでレハトといられるからこそだ。

そう思いながら顔を上げると月へと変わる前の最後の日の光を浴びて淡く輝く風景が目に入る。 まだ狭いけれど良く手入れされた畑と、古びて心持ち傾いではいても寝泊りには充分すぎる家。 
ここで過ごす一つ屋根の下で毎日目を覚ましておはようを言い、一日が終わればお休みを言って一緒に床につく平穏な、多分ありふれた日々。

かつてこの家を建てて暮らし、そしてどんな事情かはわからないが打ち捨てた誰かの様にもしこの場所を離れなくてはならない時が来たら…想像してみて意外な程胸が痛くなるのに気付く。
レハトと一緒なら住む所なんてどこでもいい。 …けど、できたらここで、初めて手に入れた自分の家、居場所でずっと暮らしていけたら。 肩に乗っていた両手を引き寄せ、背中に掛かる重みと温もりを感じている内に自然とそんな思いが浮かんでくる。
 
「…手、掴んでたら髪切れないよ? ほらもう暗くなっちゃう。 まだ半分しか切ってないのに」 

手持ち無沙汰なレハトが昔俺がよくしていた様に俺の頭にあごを乗せてくる。

「いいよ、そしたら続きをまた明日の楽しみに取っとくから」

楽しみ? 不思議そうな声に答える代わりに指を絡めて小さな手をしっかりと握りしめる。 そのまま二人でしばらくの間、夜へと変わっていく空をただ黙って見上げていた。

また、明日。 この穏やかな暮らしの続きを明日も、その先もずっと。
真上にいらっしゃる神様に祈る柄でも無いし、そんな立場でもないからただ胸の中で呟いておく。
また明日。 レハトと俺とここで、ずっと。
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