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トッズ友情ルート後。

EDはヴァイル愛情Aを迎えたけれど、友情を育んだトッズとの交流も続いている感じの話。 
基本ヴァイルのことしか頭に無いレハト。





いつも律儀に早目に来て待っているらしい男が珍しく今日は僕が部屋の椅子に腰を落ち着けて暫くしてから姿を現した。 おざなりにひらひらと手を振り、例によって口元には愛想はいいけどどうにもうさんくさい笑みを貼り付けている。

「はーい、レハトおまたせ。 貴方のトッズさん登場ー。 っと、新顔さんがいるね。 来たばっかり?」

トッズが顎で指した先には部屋の隅に置かれた鳥篭がある。 何日か前献上されたもので、今まで小鳥なんて畑にまいた種をついばんで回るだけの迷惑な奴だと思ってたけどこうしてみると意外な事に結構可愛らしい。

「あー確かにねー。 稼ぎもしないのに何で食わせて飼ってやるのか俺にはさっぱりわかんないけど。 貴族様の気晴らしにはまあ、丁度いいやね」

にやけた表情とは裏腹にどこか冴えない声を出すその様子が気にはなったものの、とりあえず手招きして向かいの席に座らせる。 あんまりのんびりしていると後の予定が詰まってしまう。 公式には特に仕事らしい仕事がある訳ではない立場の僕だけど、これでもそれなりに忙しい身なのだ。 
頷いて素直に腰を下ろしながら、何か言おうとしたトッズは開いた口から言葉より先に盛大に溜息を漏らした。 さすがに寄る年波には勝てないという奴だろうか。

「いや俺若者だから。 レハトと6つしか違わない、正真正銘の若くてカッコイイお兄さん。 …レハトは相変わらず元気そうね。 うん、ま、何より。じゃ、さっそく仕事の話でもする?」
 
喋りながら辺りをぐるりと見回している。 そんなに警戒しなくても人払いならちゃんと済ませてあるのに。 

「いや、それについては俺も疑ってないけどさ。 ……。 あー。 もうこの際聞いちゃおっかな。 いっそズバッと聞いちゃった方がいいかも。 うん」


さっきから一体なんだというのか、眉を上げて不審そうな表情を作ってみせる僕にトッズは髪を掻いていた手を止めて居住まいを正すと、何時になく真面目な顔をして問い掛けてくる。

「あのさ。 レハトにとって俺の存在って何な訳?」

……はあ? 
思わず品のない声が出てしまって、慌てて自分の口を手で塞ぐ。 突然現れて横合いから王配の座を掠め取っていった身の程知らずの田舎者、未だに僕をそう見做して敵視してくる面倒くさい連中は少なくない。
いくら今は周りに人がいないとはいえ、流石に自由な環境でのびのび育った方はいつも自然体でよろしいですわね、とか嫌味に絡まれかねない振舞いは日頃から極力慎んでおかないと。 僕だけならともかくヴァイルの評判にまで傷がついてしまったら困る。 

それにしてもこの男は突然何を言い出すんだろう。 来る途中悪いものでも拾って食べたのだろうか。 まじまじと見つめるとトッズは再び溜息をついていや違うから、と首を振る。

「そういう意味な筈がないだろ。 レハトは何の為にこうやって俺と接触を続けてるのかなあって事」

お互いの利益になるから。 それ以外の理由があるならむしろ僕の方が聞きたい。
そう返すとトッズは前に置かれたままになっていたカップを手に取り、一口飲んでからふっと息を吐き出す。 

「城の情報を外へ、外の情報を中へ。 確かにやってる事は基本あの頃とおんなじだけどさ。 お前さん、今は王配で立場が違うでしょうに。 仮にこれが王と不仲の不幸な結婚でしたってんならまだしも、仲むつまじいんで有名な王配陛下が夫の目盗んで反ランテ側と組んで裏工作してますなんて言われてもな。 よっぽどの夢見がちな馬鹿でもない限りそりゃ普通裏に何があるんだって話になるでしょ」

もう下手すりゃ俺まで疑われそうでほんとやり辛くって、殊更に声と肩を落としてトッズは愚痴っている。 でも僕としては別に害意があってトッズやその雇い主に接近している訳ではない。 あくまで双方の利になると考えている、ただそれだけなのだけど。


「…お前さん的にはそうだとしても俺の上にいる人達は当然意図を勘繰ってくるのよね。 ってかそもそもさ、王に指名されたの本当はレハトだったって聞いたよ? 散々二人で額つき合わせて王になる為の算段してたってのになんでそこで辞退するかなあ」

ヴァイルが言ったから。 僕の答えにトッズは訝しげな顔をする。 ヴァイルがどっちが王でも王配でも別にいいと言ってくれたので僕としてもどちらでも良くなってしまっただけだ。

「………。 それだけで?」

それだけとは失礼な。 僕にとってはそれが全てだ。 後ろ盾もない田舎者に過ぎなかった僕がヴァイルと結婚したいなんて申し出た所で王配狙いやランテにこれ以上印が集中するのを嫌う貴族が受け入れるとは到底思えない。 

だったら王になって貴族より上に立って黙らせよう、せめてヴァイルが恥ずかしい思いをしないぐらいの立派な地位と評判を手に入れて認めさせよう、そう考えて必死になっていたけどヴァイルはこんな何も持っていない、そのままの僕で良いと言ってくれた。 その言葉があれば正直王位なんてもうどこに行こうが割とどうでもいい。

「えー…。 いや、にしてもよ。 どっちでもいいんなら別に王になっといても良かったんじゃないの?」


確かに一応考えて見なかった訳ではないけれど。 トッズと取引をした以上、僕が反ランテ寄りだと見做されるのは避けられない。 そうなると僕が王になった場合ヴァイルの居心地が多少なりとも悪くなる可能性もある訳で、それはどうしても避けたい。 だから王になるのは辞退した。 その点王配なら何の実権があるで無し、ちゃんとヴァイルにも話せる範囲の事は話してあるから彼に影響が及ぶにしても限定的に留めておける筈だ。

何故かあきれ返った表情で僕の説明を聞いていたトッズは長椅子の背にどさりともたれかかると、天井を仰いで深々と溜息をつく。 今日一体何度目だろう。

「…いやー…はっきり言わせてもらうけどお前さん大馬鹿だわ。 周りの奴が魂胆があるに決まってるって勝手に深読みして疑心暗鬼に陥ってるだけって奴ですか。 そこ含めての作戦だってんならもう何にも言えないけどさあ。 …ていうかそこまで大事なお相手の悪い噂流す事考えるのはどうなの?って話になるんだけど。 結局は引き止められちゃったけどあの時相当悩んでたろ?」


出来たら忘れていたかった一件を持ち出され、僕の胸が罪悪感でちくちくと痛む。
当時トッズの提案が魅力的に感じられたのは確かだ。 僕がやらなくてもどうせ噂なんて既に山ほどある、だったらそこに更に一つ二つ加わったところで別にヴァイル本人に実害はないだろう。 それで少しでも状況が有利になるのなら試すだけ試してみても構わないんじゃないか、僕の目的が王位そのものだったらきっとそんな心の声に負けてしまっていたと思う。 
切羽詰って余裕をなくすというのはつくづく恐ろしい。 危うくもう少しでこの男の甘言に乗ってしまうところだった。

……それにしても出所もわからない、いい加減な噂に踊らされる人間がなんと多い事か。

ヴァイルが本当はどんな人間かなんて僕だけが知ってればいいのだし、王という立場上ある程度は仕方ないとはいえ彼に関する無責任で悪意に満ちた噂が耳に入る度腹立たしくなってくる。 
そうだ、だから僕も一層ヴァイルの役に立って彼を守れる様励まないと、改めて決心して拳を握った所に醒めた声が投げかけられる。

「一人盛り上がってるのをジャマして済みませんがね、まだ肝心な部分聞けて無いんだけど。 何でレハトは俺と今も取引続けるの?」


トッズの問い掛けに僕は黙って彼を正面から見つめ、それから部屋の隅に目をやった。 僕の様子を窺いながら素早く視線の先を確かめたトッズにもきっと同じものが見えたと思う。 篭の中でさえずる、きれいな色の一羽の小鳥。 小首を傾げながら行ったり来たり、せわしなく動き回っている。
顔を戻すと緊張感のない表情こそ普段通りだけど、その奥からいつも以上に感情の読み取れない眼差しが真っ直ぐ僕に向けられていた。

……この先トッズの力を貸して欲しいから。 どうしても。
今度は僕が居住まいを正してそう切り出す。 こちらを見据えたままのトッズは僅かに頷いて続きを促してくる。

篭の鳥ってどうして自分を不自由だと感じるんだと思う? 僕の突然の質問に彼は首をすくめると気の無い調子で返してきた。

「さあ。 残念ながら誰かに大事に囲っときたいと思ってもらえるほど毛並みが良くないもんで、そういうのはさっぱり。 …ここは素直にお前さんの意見を伺っときたいんだけど?」

別に面倒な問答をするつもりはない。 篭があるからだ。 席を立って僕は鳥篭の前に行く。 王への献上品だからだろう、やたらに凝った細工の格子の間からつぶらな瞳が僕を見上げる。


見えても届かない事が中の鳥を不幸にする。 自分だけが狭い場所に縛り付けられ続ける辛さ。 
…城から出られない生活を突然強いられたとはいえ、それまで制約らしい制約も受けずに辺境の村で生活してきた僕には正直な所その苦しみを正確に理解できている自信がない。 ただいつも側にいて、もう孤独ではないのだと実感してもらう、それくらいしかできない。

結婚した今も、ヴァイルは時折不安になってしまうのだと言う。 僕がどこかに行ってしまうのが、この城に一人、取り残されてしまうのが。 そうした気持ちを素直に打ち明けてもらえるようになったのが嬉しいし、彼が安心できるまで何度だって一緒にいると約束するし、実際そうし続けるけど。
他にももっと何かしてあげられる筈だと、ずっと思っていた。

譲位の日が来るまでは彼が城を出て自由になるというのは現実的じゃない。 それなら篭が篭でなくなってしまえばいい。 
王の目は国中隅々まで行き届いていて全ては彼のものということに建前ではなっている。
けれど事実はそうではないのをここに来て僕は知った。
表面のみ従順な貴族、神の威光を背に王の支配から距離を置こうとする神殿。
王といえど立ち入れず口も出せない領域が、見えても届かない場所がこの国には沢山ある。 そうしたものが全部、無くなりさえすれば。 届かないのでもなく、行けない訳でもない。 そんな状況を作り出せれば、ヴァイルも今よりもっと、心穏やかに過ごせるかもしれない。
だからその為に、トッズの力を貸して欲しい。 


「……レハト様さりげなく恐ろしい事言ってない? それって何もかも王様のものにする為に戦争起こすとか、貴族が隠し事するから貴族制度解体しちゃえとかそんな感じ?」

まさか。 片眉を上げて尋ねてきたトッズに僕は頭を振る。 戦争なんて起こしたらヴァイルが大勢の人に憎まれてしまうし、貴族制度の解体なんてまるっきり四代目の再来だ。 確実に僕の方が抹殺されてしまう。
そうではなくて逆、争わず取り合わず皆で仲良く暮らしましょう。 僕がしたいのはそういう事だ。

「………つまり、あれ? ランテの独裁が気に入らない欲の皮突っ張った貴族も、自分達の権威を高めたくてしょうがない神殿も、まとめて全員丸め込んで首輪つけて足元に繋いじゃおう、って事?」

ゆっくり頷く僕を見てトッズは黙り込む。 隅で歌う小鳥の声だけが暫く室内に響き渡る。

「…他の誰かだったら頭ん中平和で結構ですね、でおしまいなんだけどレハトだもんなあ。 お前さん本気な訳ね。 王配になって奴らと実際に渡り合う機会も増えたろ? その上でそんな前の王様にもできなかった事始めようとか…」

と、その時不意にトッズが吹き出した。 そのままお腹を抱えてげらげらと笑い始める。

「いやあ、やっぱ飽きさせない奴だねえお前さん。 結婚してすっかり落ち着いたかと思ってたけど、そんな訳ないか。 どう仕掛けて事がどう収まるにせよ、下手すりゃ戦争始めるより荒れるし揉めるよ? 俺としちゃそれも悪くないけどね」

建国王の再来、もしくは国を乱した毒婦。 どっちに転んでも側で見届けるのは楽しそうだとにやにやしながらトッズは続ける。 力を貸してもらえるのか、改めて尋ねると彼はふと真面目な表情になって僕を見た。

「面白そうだし、いいよ。 …って言いたいとこだけどさ。 俺も自由気ままな身分って訳じゃないから。 だから、まずは俺の事今の雇い主様から請け出してみせてよ。 あいつら今レハトを無駄に疑ってるからさ、改めてそんな話持ちかけたらますます変に勘繰って小細工始めると思うんだよね。 そういうの上手くかわして後腐れなく配下に出来たら俺も御期待に応えて尽力いたしますって事で。 本気で楽しみに待ってるから、俺をがっかりさせないでよ」

この続きは晴れて王配陛下の部下になった後にね、そう言って話を切り上げるとトッズは荷物を探り出し、僕達は手早くいつも通りのメモや品物のやり取りを終える。 


やがて時間は過ぎて、帰り支度を整えて立ち上がったトッズについて僕も扉の前まで行く。
トッズ自身は、何か叶えたい願いはないのか、ふと気になって尋ねると彼は顔だけをこちらに向けた。
一瞬、ほんの一瞬だけその目の中に普段とは違う色がよぎったように、思う。

「…働き甲斐のある雇い主の下につくことかなあ。 なーんて。 ……そんな事俺みたいのに聞くなんて本当レハトは飽きさせないね。 ま、そういうのもおいおい、ね。 どうやら長い付き合いになるみたいだし」

それじゃまた今度、言葉を残して出て行くその背中を見送りながらはっと気付いた。 そうだ。
もうすぐヴァイルが謁見を終えて玉座の間から出てくる頃だ。 
一番に顔を見せてお疲れ様とねぎらいたい。 それに、あの小鳥が寂しくないようにもう一羽取り寄せられないか後で尋ねてみなくては。

全く、王配に仕事らしい仕事がないなんて誰が言ったんだろう。 口の中で一人呟くと僕も急ぎ足で部屋を後にした。
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